先輩、お久しぶりです


 先輩は私の背後から片腕を伸ばし、説明書きを手でなぞった。
 そのせいで余計に後ろから囲われてるような体勢になり、息づかいまで聞こえそうな距離に意識し過ぎて選ぶどころではない。


「ぶ、無難なインスタントのノンカフェは美味しくないって言ってたんで、フルーティな香りを選ぼうと思って……」

「なるほどね。フルーティって言っても色々あるからなぁ。例えばこのケニア産とかいいかもな」

「そうなんですか?」

「苦味もありつつ程よく酸味があって、カシスみたいな甘みもあるっていう」

「それは美味しそうですね」

「ここに書いてあるだろ」

「確かに……」


 集中出来てないせいか、説明書きさえも読み飛ばしていた。


「じゃあこれにしようかな」

「それなら陵介が好きそうなのも一緒に買ってあげるのはどうだ?」


 なるほど! それは喜ぶかもしれない。


「それいいですね」


 同意するため勢いよく振り返ったのに、節目がちの長いまつ毛の瞳と至近距離で目が合ってしまった。


「っ!!」


 その距離が思っていたより近かったことに気づいて、私はカァーと顔が上気した。


 真っ赤に染まった顔を見られないように瞬時に前に向き直り、ここで動揺してはいけないとまた豆を選ぶフリをして説明書きを覗き込んだ。


「えーと、これは、どんな味かなぁ……」


 すでに選んだはずなのにまた何度も読み返してるのはおかしいけれど、これ以上は無理!


 顔が見えないように俯いていると、背後でしばらく黙っていた昂良先輩がようやく離れてくれた。
 そしてそのまま別の場所へ行って、少しウロウロしてからまた物色しだした。


 ホッと胸を撫で下ろしたけれど、ドキドキと鼓動が早くなったのは悟られなかったよね……。


 気持ちを整えるためにふぅと深呼吸をしてから、しばらく無言でコーヒー豆を見ていると、少し離れたところから昂良先輩が話しかけてきた。


「あのさ、二人分選ぶんだったらお祝いの一つとして贈るってのはど――」

「そうしましょう!」


 振り向きもせず、食い気味に勢いよく同意した。