先輩、お久しぶりです


 お会計を済ませようとレジの前に立っていると、「いいよ」と後ろに促され先輩が支払ってくれた。
 本人は注文すらしてないのに。


「いいんですか?」

「待っててくれたお礼」


 そう言いながらレジでカードを差し出しながら、口の端を少し上げてはにかんだ笑顔を見せた。
 それだけの仕草なのに、何故かキュッと締め付けられるような胸の高鳴りを感じてしまった。


「……ありがとう、ございます」


 さっきから反応に困るような態度をされて、昂良先輩の一挙一動にドキドキしてしまうのは、普段見ない格好を見たせいだと思いたい。


 じゃなければこの胸の奥で響く音がなんなのか、説明がつかない。



 結局、何の用事だったのか美香の出産について聞かれただけで終わってしまった。


 カフェを出てから駅の方へ向かって歩きだし、そのまま電車に乗って帰るんだろうと思っていたけれど、昂良先輩は急に立ち止まってこちらを向いた。


「これからどこか他に寄るところある?」

「いえ、特にないですけど」

「それならちょっと寄りたいとこあるんだけど、着いてきてくれない?」

「……?」


『着いてきて』と言われ断る理由もなかったため、着いて行くことになったけれど着いた先は豊富な種類が陳列しているコーヒー豆専門店だった。


「うわぁ、すごい」


 内装もレトロな感じで、珈琲豆に合わせているのか焦茶色した木材と、電球色に照らされたオレンジ色の明かりがなんともノスタルジックな雰囲気を醸し出していた。


「ここでたまに買って家で飲むんだ」

「豆からですか? 本格的ですね」


 呆けながら店内を眺めていたけれど、焙煎所ということもあってコーヒーの苦甘い香りが鼻をかすめた。


「いい匂い」

「だろ。普通で買うより少し高いんだけど、ここのが一番美味いんだ」

「そうなんですね」


 先輩の目がキラキラして、分かりやすく楽しそうな表情をしている。よほど嬉しいのか。