「めちゃめちゃ緊張してたに決まってんだろ。好きなやつが目の前にいて、平常心でいられるわけあるか」

「嫌味ばっかり言ってきたくせに」

「お前、まだ俺のこと分かってないな。……それより、なんで今そんなこと突っ込んでくるんだよ」

「私の時と全然違うからです」


自分でも何を言ってるんだと分かっていながら言った手前、後に引けなかった。
抱きついていた腕を離し、キュッと睨みつけた。


「ヤキモチ妬いてんの?」

「妬いてませんよ」

「可愛いな」


高い背を屈めておでこにチュといきなりキスが降ってきた。たったそれだけのことなのに、すぐに機嫌が良くなる単純な私。
こんな時なのに意味のないヤキモチを妬いた自分に呆れてしまう。


でも、そのおかげで先輩も緊張が解けてきたんじゃないかな、と都合よく考えることにした。
いや、ただのバカップルなだけか……。


「も、もうインターホン押しますよ」


照れながら玄関用のインターホンを押そうとした瞬間、突然ガチャリと玄関が開いた。
私たちを見て目を細め、ニヤつきながらドアを開けていたのは美香だった。


「……あのさ、いい加減人ん家の玄関先でイチャつくの、やめてくれない?」


その奥で陵介先輩も苦笑いしながら立っていた。


「エントランスのインターホン押してからいつまでかかってんのよ。待ちくたびれて迎えに行こうと思ったら玄関前でイチャイチャイチャイチャ。恥ずかしくて出られなかったじゃない」

「ご、ごめん……」


どうやら、私たちの話し声が聞こえていたらしい。
そういえば美香たちに付き合ってることを言ってなかった……。
あとで根掘り葉掘り聞かれるのは必至だな、と横でまた固まった先輩を見上げながら思った。