「それよりもう先輩呼びは終わりな。名前で呼んで」

「えっ、いきなり!?」

「もう先輩後輩じゃないんだし、いつまでもそうやって呼ばれたくない」


もちろん、付き合うことになったらいつまでも先輩呼びするのは変だと思う。
けれどたった一日で急に変えるのはそれはそれは難しい。


「ほら、言って」

「〜〜〜っ」


いまさら言い方を変えるのは本当に勇気がいる。
恥ずかしくて顔が真っ赤になっているのは、隠しようがない。


「ーーっと、じゃあ……た、昂良……さん?」


そういうと、にやりと笑って見つめてくる。
これでよかったのね、とホッと安心しているとまだ納得していない様子。


「それだと堅苦しいから他ので」


やっぱり。


「……じゃ、じゃあ……昂さん?」

「それはイヤ」

「イ、イヤ!?それなら、昂くん?たーくん?それとも……」

「『たーくん』でいい」


えぇ!?
い、いきなりそれはハードル高すぎない!?


「言ってみて」

「えっ、いや……あの……」

「自分で考えたんだろ」


そうやってイジワルそうな表情でせっついてくる。
甘くなったと思ったのに、こういう嫌味っぽいところは相変わらず。


「……たー、くん」

「もっかい」

「たーくん……」

「もっと」


もう、やけっぱちだ!


「たーくん!」

「ははっ」


そう呼ぶと、先輩は手の甲を口に当て嬉しそうに顔を赤くして照れ笑いをした。


先輩のそんな可愛い反応も照れたような表情も、今まで見たことがない。
そんな単純なことなのに、胸の奥がきゅうっと熱くなった。


「これ思ってる以上に、恥ずかしいな」

「わ、私だって恥ずかしいですよ」

「でも嬉しい」


そういうと蕩けたような表情を隠すように私の胸に顔を埋めてきた。
少し驚いたものの、そんな先輩が愛おしくてぎゅっと頭を抱きしめたのだった。