さらに目覚めたのはお昼過ぎ。


痛い腰を擦りながらノロノロと起き上がり、散らかった服を着ようとベッドの周りを見回すと、いつのまにか片付けられ、かわりに先輩のものであろう大きなTシャツが枕元に置かれていた。


横を見ると先輩はすでにベッドからいなくなっている。
しかたなく置いてあるシャツに着替えてリビングへ行くと、ホッとするような甘苦い香りが鼻をくすぐった。


「起きたか。コーヒー飲む?」

「あ、はい……。いただきます」

「じゃあここに座ってて」


ソファに座っていた先輩と交替で座ると、キッチンに立ちマグカップにコーヒーを注いで持ってきてくれた。
ありがとうございます、と両手で受け取りカップに口をつけて一口飲み込むとホッと息を吐いた。


「美味しい」


小さく囁くとフッと柔らかな笑みを浮かべて隣に座ってきた。


「服は洗濯してるから、乾くまでなにか食べるか?」

「今はまだ、いいです」


なんとなく胸がいっぱいで食欲もないためそう返事してぼーっとしていると、コツンと頭を寄せてきた。


「可愛い」

「え。な、何がですか?」


わけが分からず目をキョロキョロしてしまう。


「そういう無防備なとことか、気が強いくせして臆病なとことか、可愛いよ」


ブホッとコーヒーを吹き出しそうになった。
待って待って。起きてコーヒー飲んだだけなのに、いきなり可愛いはないでしょ。


困惑しながら横目で先輩を見ると、長いまつ毛で目を細めながら微笑まれた。

それだけで急に脈が早くなってくる。
そしてなぜか肩を抱き寄せられ、またおでこにキスをされた。


「せ、先輩は人を甘やかすのが好きなんですか?」

「好きな彼女を可愛がるのは普通だろ」


さらっとそういうこと言う……。

あぁ、分かった。
前に聞いたとき、付き合ってた彼女からは甘えられてうんざりだって言ってたのは、自分が甘やかしてたからだ。
こんなこと言われたらどっぷり甘えてしまいそうだもの。