……気持ちとは裏腹に子供みたいなことしか言えない私は、本当に素直じゃないのは分かってる。


分かってるくせに、やっぱり好きとは言えない。


どれだけ憎まれ口を叩きあっていても、出会った瞬間から私は先輩に恋焦がれていた。
だから嫌いになるなんて初めから無理なのに。


臆病だから。
傷つくのが怖いから……。


離れるだろうと思っていた腕はより一層強く抱きしめてくる。さらに沈んだ声だと分かるほどの声色で耳元に囁きかけてきた。


「千春に嫌われても憎まれても仕方ないのは分かってる……」


そう言ってから、俯く私の肩に額を乗せた。
ふんわりと先輩の髪が頬をくすぐる。


「でも今度こそは絶対に逃げないし、悲しませたりもしない。お前を愛してるんだ。
だからもう一度初めからやり直そう……」

「ーーっ」


その言葉に肩が震え、手の甲で口を押さえた。


もう無理だ。これ以上は無理。


私は抱きしめられていた腕を解いて振り向き、苦しそうに俯く先輩の頬を掌で優しく撫でた。


上を向いた先輩の顔は涙で滲んでよく見えないけれど、もう逃げるのは終わりにしなければ。


「ほんとは好きです。大好きなんです。
だから……もう離れないで、ください。離さないでっ」

「っ!」


やっとその言葉を口にすると、勢いよく抱きしめられ今までの年月を埋めるように確認しながら、離さないとでも言うように深く唇が重なった。



――あぁ、そうだ。

離れていた数年間、先輩も私と同じように怖かったはず。私だけが辛かった訳じゃない。
お互いに誤解していたからこそ、解けない感情にずっと支配されていた。
裏切られるかもしれない、と。


けれど過去やトラウマなんて、素直になれば解けるのはこんなに簡単なことだった。

もう一度はじめからやり直せばよかっただけなんだ。