「千春はあの頃ずっとこんな気持ちで過ごしてたのか?」

「え?」


こんな気持ち……というのは学生時代、先輩を探し回って連絡を取りたくても取れなくて、苦しかった時のことを言ってるの?


「今回、音信不通になってようやく分かったよ。
千春があの頃こんな気持ちで待ってたのかって思うと、結構……辛いよな。

お前に無視されて今頃んなってやっと気づくとか、遅すぎだけど……」


その言葉を聞いて息が詰まりそうになる。

私だってこの3週間悩みすぎて結果的に無視してしまったのは本当に申し訳ない気持ちになる。
けれど、学生の時のあの頃のことを言われると思い返すだけで辛くなる。


私が経験した長さは言葉では言い表せないくらい辛いものだったから。
でも今さらとはいえその気持ちを少しでも分かってくれたと思うと……。


鼻の奥でツンとなるのを堪えながらギュッと目を瞑った。


「……ほんと遅すぎます。

私がどんなに先輩を探したか……どれだけ色んな人に訪ね歩いたか、忘れようとして必死だったか、先輩は知らないですもんね」

「……っ」


後ろから抱きしめてくる腕が一瞬ピクリと動いたものの、今はただ黙って聞いている。


「あの時、冷たい目で最低だって言われて去っていった背中を見て、私がどれだけ傷ついたか……。
なのに、また私の前に現れて私の気持ちかき乱して……私はもうあの時と同じ思いはしたくない、もう苦しみたくないんです。

だから先輩なんて嫌いなんです……!」


そこまで言って、唇をぐっと噛み締めた。
平静を装っていたのに頬には自然と涙が伝い、緊張していた気持ちもどこかへ吹き飛んでいた。


こんなことを言うつもりはなかった。
むしろこんなことは言いたくなかった。
なのに次から次へと言葉が溢れて止まらなくて、どうしようもない。


「……うん」


一言だけそう言ってからも、動かない。


「本当に嫌いなのに……」

「分かってる」