わかりきっていることを言われ、その意図が汲み取れず、知由は首を傾げる。


「マスコミが遠目に見てるのは、みさきちゃんだけだよね?ってこと」


 知由が理解するには、それで十分だった。


 知由は勢いよく立ち上がる。


 しかし、すぐに身動きできない立場にいることを思い出す。


「こういうのは、情報を操作したほうが有利だったよね」


 まるで自分を使えというような発言だ。


 それでも、知由は迷っていた。


 自分で見て、聞いて、考えて、答えを導き出すことに楽しみを見出し始めたのに、昔のようなことをしてしまうのに、抵抗があった。


 かといって、このまま引きこもっておくのも面白くない。


 昔の自分を知っている相手だから今さら取り繕ったって意味がないと、抵抗心が薄くなる。


「……できるだけ、朝原晴真からマスコミの注意を逸らしたい。それと、朝原晴真の昔の人間関係と人物像が知りたい」
「朝原晴真だけじゃなくて、みさきちゃんからも興味を失ってもらわないと困るよね」


 滋は腕を組んで、わかりやすく悩む。


「できるか……?」


 弱気な知由を見て、滋は本当に珍しいものを見ている気分になった。


 だが、からかいたくなる気持ちを抑え、知由を安心させるために笑顔を作る。


「僕はあの天才怪盗の情報屋をしていたんだよ? 安心して任せなさい」


 知由は滋に頭を撫でられ、少しだけ不服そうに、でも確かに、安心していた。