僕の父親は大学を卒業後、旅行代理店に勤め、後に独立し『月の華リゾート』を設立した。
両親の喧嘩が多かった時期でもあり、父親の仕事の忙しさも喧嘩の原因の一つだったのかもしれない。

始めは廃れたホテルを安く買い取り、『月の光の下で大人の癒し空間を』というのコンセプトにリノベーションを行い、
どの部屋からでも月が出ている夜は月明りを楽しめる設計を施した。
海に浮かぶ月を見ながら露天風呂に浸かれる部屋や、天窓があり月明りを楽しみながら過ごせる部屋。

どの部屋に泊まってもシンプル且つ高級感があり、大人女子に人気がでたのをきっかけに、『恋人と行きたいホテル』『老後にのんびり過ごしたいホテル』『ちょっと大人な一人旅』などのランキングで1位になると、あっという間に各リゾート地に『月の華ホテル』が増えた。

ホテルが各地に増えたのは、僕が不登校になり、家族旅行が増えたころでもあるので、もしかすると父親はホテル建設の下見も兼ねていたのかもしれない。

『月の華リゾート』の設立時は単純にホテル経営のみだったが、今ではホテルの予約を取り次ぐサイトの運営や、建設業、用地取得のために不動産業と幅広くなり、父親が必死に動き回らずともグループ内でうまく仕事が回るようになっていた。

一代でここまで会社を大きくした父親は尊敬するが、行動力ある父親と違って消極的な自分には会社経営なんて無理だと思っている。

橘には会社を継ぐのか決めていないと返事をしたが、父親がこんな僕に会社を譲るとは思えないし、そんな話をしたこともなかった。