「ま、待って」
「何」


これで終わり?


「キモイよ」
「それは自覚してますけど、惚れちゃったんです」
「…頭大丈夫?」
「多分」



自分がどレほどキモイかくらい分かっている。
自分が常識外れなことをしていることも。
でも、それをも越えられるこの衝動は、未だかつて感じたことがないものだった。



「好きです」
「急いでるから」
「連絡先だけ」
「ウザイ」



バンと振られた手は私の肩を跳ねて、私の体を弾いた。


「いい子はいい子の世界で生きてればいーんだよ、沢鷹さん?」
「なんで私の名前……」
「ここ」


彼が指さしたのは私の胸元。
そこには学校で指定されている名札が。
しっかりと私の名前が記載されていた。


名札を外し忘れていたことより、胸に指が触れたことより、彼に名前を呼ばれたことがとても恥ずかしくて。


「だーてんし!早くしろって!」
「はいはい」


紅く染った頬を冷却する暇もなく、彼は呼ばれた方へ向かってしまった。


(だーてんし……堕天使?)


天界を追放されてしまった天使。
自らの意思で天使をやめた存在。


彼の堂々たる背中と、その雰囲気がその名前を彼の存在と密着させる。


「堕天使……くん」


あまりにも目立つ存在なのに、周りの人は誰も気にしない。
そこに存在していないかのように扱う。


(好き)


衝動的に出てしまった言葉だったけれど、何も間違っていなかったと思う。


(好き…)


どうしてこんなに惹かれるのだろうか。
何も分からないけれど、心の底から温かな感情が溢れ出る。


私の恋はここから始まった。