「……教科書、ねぇ……」
ポツリと、低くかすれた声が聞こえてきた。
どうやら彼は、教科書を持っていないらしい。
「ふふっ」
何だか彼らしい。
期待を裏切らないところがいいなあと、小さく笑ってしまった。
すると、切れ長の目がこちらに。
ジロッと背筋が凍るほどの視線が向けられた。
少し怖かったけど、初めて彼と目が合って、少し嬉しかった。
「見てんじゃねーよ」
彼の前後左右の席の人たちが、体をビクつかせたのが分かった。
それほど、彼の声は低くて迫力がある。
「あっ、その……違うの」
梶野くんがあたしを見てる。
いや、睨んでる。
「これ、見るかなって思って」
数学の教科書を彼に見せると、さらに険しい顔をした。
彼のそんな表情を見ると、少し後悔の念が押し寄せる。
やっぱりおせっかいだったかな。


