お父さんは、ポテトサラダをスプーンですくって、お兄ちゃんの口元へ運ぶ。
「はい、陸、口開けて」
その言葉に、お兄ちゃんは口を開けてポテトサラダを咀嚼する。
「じゃがいも……」
飲み込んだ後に、お兄ちゃんはそう呟いた。
「そう、じゃがいものサラダ。花が作ってくれたんだぞ」
お兄ちゃんは、基本的に一語文しか言葉を離さないことが多い。
二語分以上を話すことはあっても、結局途中で喋るのをやめてしまったりするので、何が言いたいのか分からなかったりすることもよくある。
「じゃあ、次はこれだな。はい、口開けて」
お父さんは、今度は豆腐ハンバーグをお兄ちゃんの口に入れる。
「はんばーぐ……」
「そう。これはハンバーグ。美味しいな」
お父さんの『美味しいな』という言葉には、お兄ちゃんは反応しない。
……別に期待したわけじゃないんだけどね、お兄ちゃんが反応しないことなんて全然珍しいことじゃないし。



