「ただいまー、花」
わたしが、にんじんやパセリを切っていると、お父さんが仕事から帰ってきた。
「お父さん、おかえりなさい。陸、お父さんが帰ってきたよ」
お兄ちゃんは、陸、と呼ばないと反応しないことが多い。
お兄ちゃんと呼んでも自分のことだと分からないので、わたしはお兄ちゃんとは呼べないのだ。
だからわたしもできれば、お兄ちゃん、じゃなくて、陸、と呼ばないといけない。
「おとーさん……」
車椅子に座りながら、お父さんを呼ぶお兄ちゃん。
「おお、花が飯を作ってくれてたのか。そりゃあ助かるなぁ」
お父さんはそう言って、のんびり笑ってからお兄ちゃんにもそうにっこり笑いかける。
「花が飯作ってくれてるから、待ってような」
「花……」
車椅子に乗った状態のお兄ちゃんは、ぼーっとしたような顔でわたしの名前を言っている。



