本当の恋とは言えなくて

病院を出てホテルに向かって伸びる横断歩道の前まで無言で一緒に歩いた。

「それじゃあ、私は…」
そう言いかけた時
「ありがとうございました。私ではどうしたらいいか判断しかねていたので…」
駒山さんが立ち止まり話しかけて来た。

「いえ、お力になれたようで良かったです。」

「卓は、麗子だけでなくて、俺たちにとっても大切な存在なんです…。」
突然そんな話をされてびっくりした。

「え?」

「麗子の旦那は亡くなっている。私や先日一緒に保育園を訪ねた春馬の親友だった奴なんです。だから…」駒山さんは空を見上げてポツリポツリとそう話した。

「親友…亡くなった…」

「だから、本当にありがとうございました」

深々と頭を下げられ慌てる。

「ちょ、ちょっと待って下さい。そんな頭を下げられるほどの事は何も…」

「いえ、本当に感謝しています。」

今度は真っ直ぐ目を見つめて言われさらに慌ててしまう。

「当たり前のことをしたまでです。あ、信号が青になりましたよ!お仕事戻られますよね?それでは、失礼します。」

早口でそう言うとオフィスビルの入り口まで走った。

振り向くと駒山さんはまだこちらを見ていてびっくりしたが、振り向いてしまった手前手を振ってごまかした。

(ふぅ…朝からいろいろあったな…)
そう思いながらエレベーターのボタンを押した時、何となく視線を感じて後ろを振り返った。キョロキョロと見回すが誰もいない…最近こんなことが良くある。この前の公園での出来事がトラウマを呼び起こして敏感になっているのかもしれない。

ポーン

エレベーターが到着した。
ブンブンと頭を振って気持ちを切り替え、エレベーターに乗った。

どういう関係なんだろう、と疑問に思っていた三人の関係が少しわかった。

(そうだったのか…)

さっきの駒山さんの言葉と病院で駒山さんに抱きしめられている麗子さんの姿を思いだしていた。
「…母親の友達…ね」駒山さんが朝日奈先生に言っていた言葉を知らず知らず口に出してしまっていた。

何気にしてるんだか! あの人達とは住む世界が違う私には、三人がどんな関係かなんてちっとも関係ないじゃない!!