本当の恋とは言えなくて

足元がフワフワとしているような、現実では無いような…そんな気持ちでビルのエントランスを抜けたところで

「連絡、忘れてるでしょ。」

と声をかけられて思わすビクッと肩を揺らしてしまった。


「紬…」

そう柔らかい声で呼びぎゅっと抱き締めてきた。

その声とフワッと薫る柑橘系の香りに包まれたとたん頬に涙が伝った。

「待たせてごめん。ホントにごめん。」

カズくんの絞り出すような声とかすかに震える手からカズくんの気持ちが伝わる気がした。

(カズくんもきっと不安で仕方なかったんだ)
そう思った。

「これからはもっともっと紬のことを大切にすると約束するよ」

「絶対だよ!駒山社長!」

ちょっとふざけ気味にそう言うと

「おっ、おい!社長って…何かまだ慣れないから…」
しどろもどろに照れるカズくんの頬にそっとキスをした。

ほっぺを押さえながらさらにうろたえるカズくんの腕を組み引っ張るように歩き始める。


「ったく、紬には叶わないな。」

「そう?」

「俺の方がドキドキさせてやるつもりだったのにな~」

ちょっとふてくされ言うカズくんは少し可愛らしく感じた。そんなとこも好き…


「あ、そうだ!これから私本当のほんとーの恋、するんだ!」

「え?だっ、誰に?!」
今度はうろたえるカズくん。


「それは言えないね~フフッ」

腕を振りほどいて走り出す。


「え、ちょっちょっと待てよ
~!」

慌てるカズくん。


ずっと無表情で、取っつきにくくて、何考えてるか分かりにくい…そんな彼はもういない。


ここから私たちの本当の恋が始まる。

偽りの関係は終わり!

本当の恋…
そして深い愛へと変わって行く。