本当の恋とは言えなくて

そこにはサラサラと流れるような黒髪をかきあげながら無表情で佇む秘書の松下さんが映っていた。

ごくりと唾をの飲み込む。

今一番会いたくない人かも知れない。

震える指先で通話ボタンを押す。

「…はい。」

「相川さんにお話があって来ました。突然の訪問で失礼いたします。」

上がっていただくかどうか少し迷ったが自分の気持ちを整理するためにも会って話を聞いておいたほうが良いだろうと思った。

「今オートロックを解除します。お入り下さい。」

声は震えていたかもしれない。

深呼吸をして玄関前に立ち、松下さんを迎える準備をした。

しばらくしてドアをノックする音がした。

ドキッと胸が痛む

胸元の服をぎゅっと掴みながらドアを開ける。

そこには深々とお辞儀をした松下さんがいた。


「…!ま、松下さん。どうして?」
思わず駆け寄り両肩を抱き起こした。

「仕方がないこととは言え、相川さんを傷つけるような事をしてしまい大変申しわけありませんでした。」

両肩に添えた私の手をやんわりと外し再び深々とお辞儀をして涙声で謝罪の言葉を口にする松下さんはいつもより弱々しく見えた。

「松下さん…とりあえずお上がりください。詳しくお話を聞かせて下さい。」