本当の恋とは言えなくて

トントントン

軽やかなノックの後で秘書の松下が副社長室に入ってきた。

ディスクに両肘をついて頭を抱えている俺の目の前にコーヒーをスッと差し出す。


「お疲れのご様子ですね。」

サラサラと揺れるロングヘアをかき上げながら顔色を見るように覗き込まれ、押さえていた怒りが沸いてくる。思わず机を拳で叩きつけていた。

コーヒーカップが揺れパシャリとこぼれディスクに茶色く広がる。

「今は松下の顔は見たくない!出ていってくれないか!」

精一杯怒りを抑えてそう告げるが、それがわかってかわからずかトレーの上にのせていたフキンでディスクにこぼれたコーヒーをスッと拭きながら「もう皆様に公表させて頂いたんですもの、妙子、とお呼び下さってかまいませんよ」と言われ頭にカッと血が昇るのが解った。

気が付くと松下に詰めより胸ぐらを掴んでいた。
「パーティーの前日にあんなに相談したじゃないか!お互いのためにどうしたらいいかを…それなのに何故!」

松下はワナワナと震える俺の手を冷静に引き離し「落ち着いて下さい。冗談も解らないほど取り乱したりして、みっともないですよ」ニヤリと微笑みながら言う。

これ以上顔を見ていたら本当に殴り飛ばしてしまいそうだったので松下に背を向け窓辺に移動する。

「敵を欺くにはまず味方から、と申しますでしょ。」

思いがけない言葉を投げ掛けられ思わず振り向く。

「あの日俺の部屋で婚約について二人きりで相談したいから、と無理やり二人きりにしてもらって話したことは嘘だったのかよ!やっぱりお前も親父と一緒になってこのホテルKOMAYAMAと菊水のために俺を騙したんだな!」

松下は凄い剣幕で話す俺を鼻で笑った。