本当の恋とは言えなくて

電車に乗り出勤の途中、降りる駅が近づくにつれ思い出したくないことを思いだしてしまう。

一緒に歩いたビルまでの道
手を繋ぎハグをして…
そんな毎日がいつまでも続くと思っていた。

電車がスーっと速度を落とした。いつもの駅だ…

駅前の柱に寄りかかり、両手をスーツのズボンに入れて寒そうに立つ彼の姿が頭によぎった。

足がその場に凍りついたかのように1歩も動かず、ついに乗り過ごしてしまった。


初めて仕事をずる休みしてしまった…。

彼は居るだろうか…
いや、あんなことがあった後だもの
居ないかもしれない。


彼がそこに居ても居なくても私は、もうどんな顔をしてどんな風に振る舞えばいいのか分からなくなっていた。

笑い方も忘れてしまったようだ。