本当の恋とは言えなくて

昨日の夕方いつものように駅まで歩いて送ってくれたカズくんは

「明日、16時に迎えに行くから。1日中一緒に居られなくてごめん。」
そう言ってキスを1つ落とした。

カズくんはあの事件の後、それまで以上に過保護に、それまで以上に甘々になっている。
少し戸惑いながらも嬉しくて…



12月半ばを過ぎたが、暖冬の今年はまだ雪もちらつかない。

今日はホテルオオサキの30周年記念パーティーの日だ。そう…カズくんが私の事を紹介してくれると言っていたあのパーティー。

パーティーなんて出席したことも無ければおしゃれなワンピースもヒールの靴をはいたこともほとんど無い。そんな私がパーティーなんて。カズくんのために気合いを入れるしかないが気合いだけで乗り切れるだろうか…不安でしかない。

それでも精一杯お化粧をした。普段しないアイメイクも、華やかな口紅も。
おろした髪をふんわりと巻き片側に流した。

姿見で確認をする。
「おかしくないかなぁ…」
そう呟いた時インターフォンが鳴った。

ドキドキと胸がうるさく鳴り始める。

先日、甘く叱られたばかりだ。玄関のドアの前に立っているのがちゃんとカズくんだと確認してからドアを開ける。

黒のタキシードで髪をオールバックにまとめているカズくんは目が覚めるほど格好良かった。
「か、カズくん…」次の言葉が出てこない。

「紬。やっぱりそのドレス、紬に良く似合うよ。」目を細めて本当に嬉しそうに言ってくれて、おしゃれを頑張ってホントに良かったと思った。

ふんわりと抱きしめられ、柑橘系の香りに包まれる。緊張が少しほどけた気がした。

「昨日の夜はごめんね。紬と一緒に過ごしてそのままパーティーに行くつもりだったんだけど…どうしても抜けられない用事があって。」
抱きしめたまま申し訳なさそうに言いう。

「ううん、大丈夫。カズくんは私を甘やかし過ぎ!準備くらい自分で出来るよ。」

「知ってるよ。でも俺が手伝いたかっただけ。」頭をポンポンと軽く叩かれ、子供扱いだな、と思いながらも少し嬉しい自分がいる。

「ずっと紬を一人占めしていたいところだけど、そろそろ行こうか。」
差し出された左腕に手を添える。

「今日はしっかりエスコートさせてもらうよ」

「よろしくお願いします!」

二人で笑いあいながらマンションを後にした。