本当の恋とは言えなくて

一晩様子を見て、何事も無かったので次の日には退院をした。

週末だったこともあり仕事は休みだったので自宅でゆっくりと心と体を休ませることができた。

日曜日の夕方
「ごめんね、お母さん夜勤代わってもらえなくて…」

申し訳なさそうに私の頭を撫でながらそう言う母親に心配をかけてしまって、こっちの方が申し訳ないと思う。

「大丈夫だよ。体は何とも無いし!それに…」

「ハイハイ、駒山さんがもうすぐ来てくれるのよね!じゃあお母さんはおじやま虫だから仕事でちょうど良かったわよね。」
からかうように言うとじゃあねと仕事に出掛けていった。

しばらくしてインターフォンが鳴った。カズくんだろと、分かっていても一瞬不安になる。
「はーい。」
インターフォンの通話ボタンを押す。

「紬?俺だけど…」

「今オートロックの鍵を開けるね。上がってきて。」
オートロックの解除ボタンを押し、玄関ドアの鍵を開けた。

カズくんの顔が早く見たくて待ちきれず玄関のドアを少し開けて待つ。

コツコツ コツコツ 
早足で廊下を歩く音が聞こえた。

(カズくんだ!)

そう思うと嬉しくてドアを大きく開け
「カズくん!」
と呼び掛けた。

カズくんはハッとしたような表情をしてさらに足を早めドアから身を乗り出した私をきつく抱きしめた。

「くっ苦しいよ!」
身動きできず息苦しいほど抱きしめられた。


ガサッ カズくんが持っていた紙袋が音をたてて落ちる。
カズくんは後ろ手にドアを閉め、ガチャリと鍵もかけた。


スンスンとカズくんの香りを思い切り吸い込み、ホッとした。
「カズくん?」いつまでもきつく抱きしめたままのカズくんをもう一度呼んだ。

「…紬。無用心すぎる…。」
低く、少し怒ったような声で言われて戸惑う。

「ちゃんと誰がたずねて来たか確かめてからドアを開けてよ。」
絞り出すように言うその声は少し震えていた。

「ごめんなさい…」
素直に謝ると抱きしめる腕が少しゆるんだ。

私の首もとに顔を埋めたまま何も言わないガスくん。顔を見たい。そう思ってそっと離れて顔を覗き込むと…ハッとした。

カズくんの目に光るものが…

「か、カズくん…もしかして泣いて…」
泣いているの?とたずねたかったが最後まで言葉にする前に激しいキスをされた。

「…んっ…ん」息も出来ないほど…。

「紬は俺のものだよね。」

「誰にも渡したくない。」

「好きだよ。」

激しいキスの間に甘い言葉をささやかれ身も心もトロトロにされてしまった。

それと同時に、すごく心配をかけてしまっていたんだな…ってあらためて思った。