本当の恋とは言えなくて

ピピピッ ピピピッ 6時にかけたタイマーで目覚めた。

一瞬どこにいるのか分からなかったが、かすかに薫る柑橘系の香りで昨日の出来事を思い出した。

カタカタッ リビングの方で音がしたような気がしてそっと寝室のドアを開ける。

目玉焼きのいい匂いが漂ってきた。

「あ、おはよう!もう起きたの?」
キッチンに立つカズくんが優しく声をかけてくれた。

「か、カズくん!何で?」

「仕事を大急ぎで片付けて来た。紬に会いたくて。」

ふわっと抱きしめられ、嬉しさでギュッとしがみつく。

「倒れちゃうよ、無理したら。」

「大丈夫。俺、丈夫だし。それより朝飯食べよう。さ、座って。」

ダイニングテーブルに座るよう促された。

テーブルの上には新鮮なサラダと目玉焼き、ウインナーが乗っていた。

「美味しそう!カズくん料理も出来るの?」

「紬、目が真ん丸でこぼれ落ちそうだよ。ハハハ。料理ってほどじゃないだろ、こんなの」

「でも、御曹司でしょ?料理なんてしない環境かな、と思って。」

私の言葉に一瞬困ったような顔をして
「俺、紬が思うような御曹司じゃないから」
と寂しそうに言う。

何か触れられたくない事情があるのかもしれない、そう感じた。

「せっかく作ってくれたんだし、冷めないうちにいただくね。」

カズくんの焼いてくれた目玉焼きはとってもきれいだった。私が食べるのをめを細めて見ていたカズくんが思い出した、と言うように口を開いた。

「あのさ…紬にお願いがあって。」

「なに?」

「今度あるホテルオーサキの30周年パーティーに招待されてるんだけど、婚約者として同伴して欲しいんだ。」

「…!?え?」

「本物の婚約者として。」

「ほ、本物?」

「紬は俺との関係、もう本物だと思ってくれてるよね?」

「そ、それはそうだけど…パーティーなんて私行ったこと無いし…」

「大丈夫!まかせといて。紬って今日何時まで仕事?」

「今日は普通番だから六時前にはあがれるよ。」

「じゃあ、仕事終わり、買い物行こう。それと…紬のお母さんに挨拶もしないと。」

嬉しそうに笑うカズくんの顔を見て不安な気持ちが少し和らいだ。