本当の恋とは言えなくて

そっと触れていた唇が離れ、頬を包み込むようにしていた両手も離れた。

「ごめん。気持ちが押さえきれなかった。」
カズくんは唇を少し噛み目を伏せる。

何も言えない。何と答えたらいいかわからなくて

ドキドキと震えがおさまらずうずくまってしまった。

カズくんもしやがみ、大きな体で包み込むように私を抱きしめてきた。

「ごめん。ホントにごめん。怖がらせるつもりは無かったんだ。ただ紬が心配で…電話の向こうで紬が泣いていると思ったらいてもたってもいられなくて気がついたらここに来ていた。」

カズくんに守られるように包み込まれ、苦く冷えきっていた心と体か暖められたような気がした。
それでも私はまだ何も言えず、ただうなずく事しか出来なかった。

「お願いだから、もう少しだけ恋人役をやらせて。偽装の関係をやめるだなんて言わないでくれ。」
振り絞るように呟く声が頭の上で聞こえた。

そう言われてハッとした。
(そっか…カズくんには偽装の婚約者が必要なんだった。)
そう気づくと胸がズキッと痛んだ。

私は何を期待していたんだろう。カズくんのためにもこの関係をもう少し続けよう。

この胸の痛みの正体から目をそらした。