本当の恋とは言えなくて

家に着き、カズくんに連絡しようと思ってスマホを取り出すとちょうど里美から電話がかかってきた。

「ちょっと~紬!駒山さんて、ほんとイケメンで紳士よね!!」
電話の向こうで里美がずいぶん興奮しているのが見えるようなテンションが高い声だった。

「え、どしたの?」

「私なんかまで駅まで送ってくれてさ、しかも改札を抜けるのを見守ってくれたんだよ!!いいなぁ、紬は。毎日あんな幸せな時間を持ってるだなんて!」
里美は興奮気味だ。

…里美も改札までお見送りしてもらったのか。

そう思うと、今まで何となく自分だけが特別なんだと勘違いして浮かれていた自分に気づいた。

「そうなんだ。ホントにね、カズくん優しいよね。無愛想だから誤解されちゃうけど。」

そんな話をしたのは何となく覚えてるけど、その後里美とどんな話をしたかほとんど覚えていない。

気がつくと通話は終了していて、コートも着たまま、マフラーも巻いたまま自分の部屋のベットに座り込んでいた。

頬には何故か涙が伝っていた。

握りしめていたスマホのバイブが震えた。
まだマナーモードにしたままだった。

ディスプレイを見てあわてて通話ボダンをタップする。


「紬?無事家に着いた?」

受話器から聞こえるカズくんの声が優しすぎて涙が溢れだす。
何故そうなのか、わからないけど…。

「…紬?何かあった?大丈夫?」

いつまでたっても私が喋らない事をカズくんが心配して焦っている様子が電話越しに伝わる。

「…大丈夫。何でもない。ちょっとバタバタしてて家に着いたこと、連絡出来なくてごめんね。」

「いや、大丈夫ならいいんだけど…」

「ホントに大丈夫だから。あ、それから、最近はもうストーカーの心配も無くなったから、明日からはホントにね、送迎とかもういいから。もうね、ストーカーされてたことすら忘れちゃってたくらいだし。それに、ストーカーされてるとか気のせいだったのかもって思ってる。今までありがとう。」

「え?そ、それって…」

「カズくんもさ、忙しいだろうし、もう偽装の恋人役とかやめよ。」
反応が怖くてカズくんの言葉をさえぎるように言った。

「でも!紬…」

「ごめんね、今まで付き合わせちゃって。ちょっとした知り合い程度なのにいろいろ良くしてもらって。」

「紬?」

「明日からはまた『駒山さん』って呼ぶから、駒山さんも『紬先生』でいいよ。」

「…。」

「じゃあ、おやすみなさい。」

一方的に話して通話を終わらせてしまった。

通話中はこらえていた涙がまた溢れだす。

何に悲しいのか、何で涙が止まらないのか自分で自分の気持ちがわからない。


耳の奥でカズくんが「紬」って優しく呼ぶ声が聞こえる気がして耳をふさいだ。