「お先に失礼します」
仕事が終わり、保育園を出ようとしたとき、カズくんが仕事が終わったら電話してと言っていたことを思い出した。
スマホの時計を見ると5時半だった。
(カズくんはまだお仕事中だよね…っていうか何時から何時までが仕事なんだろ…)
そんなことを考えていたらエレベーターが一階に着いた。
どうしようかなぁ…お仕事中に電話なんかしたら邪魔しちゃうよね。
少し迷って電話ではなくメッセージを送ることにした。
『お仕事お疲れ様です。私はさっき仕事が終わりました。これから電車で帰ります。カズくんはまだお仕事中だよね。あまり無理しないようにね!』
そうメッセージを送信し、ふと向かいのホテルを見上げ、あの辺りかなぁ…と四階の副社長室あたりを見る。
高級感あふれるホテルの佇まい、自分がカズくんとはあまりにも不釣り合いだとあらためて思った。
考えても仕方がない事だ。どうせ偽装彼氏なんだし。
ふぅ、と溜め息をついて駅に向かって歩き始めた。
「紬!」
遠くから名前を呼ばれたような気がして立ち止まり回りを見渡す。
「紬!」
また聞こえた声の方を見るとホテルのエントランス前に向かって伸びる横断歩道の向こうにカズくんが立っていた。
(なんだ、エントランスに居たのか。)
そう思いながら手を振りまた駅に向かって歩きだした。
「紬!」
今度はすぐ近くで名前を呼ばれ、いきなり後ろから抱きしめられた。
驚いて心臓が飛び出すかと思ったが、柑橘系の香りに包まれ、それがカズくんだとすぐにわかった。
「なんだ、カズくんか。どうしたの?」
抱きしめられた腕に手を当てて少し振り向いて声をかける。
「なんだじゃないだろ!電話してって言った!」
走ってきたのか上がった息を整えながら少し怒ったように言う。
「え?ちゃんとメッセージ送ったよ。」
人目が気になり抱きしめられている腕をほどき、向かい合う。
「俺は、電話してって言ったの。」
まだ怒っているような表情をしている。
「ごめんなさい。まだお仕事中だと思って。」
何だか申し訳なくなって素直に謝った。
「昨日あんなことがあったばかりなのによく平気でいられるね。」
「別に平気な訳じゃないけど?!ちゃんと気をつけてたつもりだよ。」
その言い方にカチンと来てついつい私も怒り口調になってしまう。
「紬はわかってない!」
そう怒鳴るといきなり手を繋いで引っ張るようにホテルに向かって歩き始めた。
ふと回りの視線が気になった。
パリッと高級スーツを着こなしたイケメンはこんな街中で立っているだけでも目立つのに、量販店で購入したモコモコのジャケットにジーンズ、靴はスニーカー、首にはマフラーをグルグル巻き付けた子供っぽい女の手を引いて歩いているなんて…
「カズくん?ちょっと、みんな見てるよ!」
「かまわないだろ」
「え、でも…」
そうこうしているうちにホテルに着いてしまった。また従業員入り口から入るのかな…と思っていたのになぜか堂々とエントランスから中に入り…手も繋いだまま…というか握りしめられて引っ張られてると言う方が正しいか。
「カズくん、もう離して、ね、離して。」
思わず小声になる。
ホテルスタッフの皆さんはさすがにプロらしく表情は変わらないが、明らかにチラッチラッとこっちを見ているのがわかる。
「離さない。」
きっぱりと言われる。
(えー?!もう…どうして…)
「この方は私の大切なお客様なので、このまま私の部屋に通します。」
フロントスタッフにそう声をかけ、細い通路にある従業員専用エレベーターまで手を引かれて歩いた。
カズくんは勢いに任せてエレベーターのボタンを力強く押した。怒っていることが痛いほど伝わる。
エレベーターが来るまで無言で待った。
手はきつく握られたまま。
程なくしてエレベーターが来てドアが開いた。
カズくんが先に入り、手を引かれながら私も中に入った。
「あの…カズくん?もしかして…怒ってる?」
下から顔を覗き込んでおずおずとたずねる。
「もしかしてじゃない。怒ってるよ」
刺々しい言い方とは裏腹に優しく抱きしめられた。
(えー?!)
「守るって約束したのに、ちゃんと手の届くところにいてくれないと守れないだろ。一人で帰ったりするなよ…心配するだろ…」
段々と弱々しい声になる。
「カズくん。心配かけてごめんなさい。でも、誰かに見られたら困るから…ちょっと離して…」
抱きしめられている腕の中で身じろぎをする。
カズくんは 離さない とでも言うように腕に力を込めた。
「見られてもかまわないよ。さっきも言った。」
「でも…」
「見せてる。わざと。」
(え?わざと見せてる…って…)
「で、でも 今は誰も見てないよ!」
「誰も見てなかったら抱きしめちゃいけない?」
「え、そ、それは…」
全くもって屁理屈だ。
ポーン
エレベーターが四階に着いた。
カズくんはまた私の手を引いてズンズン歩く。途中秘書室の前を過ぎるときも手は離さず
「しばらく誰も通さないで下さい。たとえ社長でも。お願いしますね。」
サラッと爽やかな笑顔でそんなことを言うカズくん。私はどうしたらいいかわからずとりあえず引きつった笑顔で会釈をした。
綺麗な秘書のお姉さん達は明らかに嫌そうな顔を私に向ける。(何であんたなんかが副社長と手を繋いでいるの?)と言いたそう。
あまりにも過保護な様子に戸惑う。
過保護だよね…過保護なのに笑顔はまだ見せてくれない。
仕事が終わり、保育園を出ようとしたとき、カズくんが仕事が終わったら電話してと言っていたことを思い出した。
スマホの時計を見ると5時半だった。
(カズくんはまだお仕事中だよね…っていうか何時から何時までが仕事なんだろ…)
そんなことを考えていたらエレベーターが一階に着いた。
どうしようかなぁ…お仕事中に電話なんかしたら邪魔しちゃうよね。
少し迷って電話ではなくメッセージを送ることにした。
『お仕事お疲れ様です。私はさっき仕事が終わりました。これから電車で帰ります。カズくんはまだお仕事中だよね。あまり無理しないようにね!』
そうメッセージを送信し、ふと向かいのホテルを見上げ、あの辺りかなぁ…と四階の副社長室あたりを見る。
高級感あふれるホテルの佇まい、自分がカズくんとはあまりにも不釣り合いだとあらためて思った。
考えても仕方がない事だ。どうせ偽装彼氏なんだし。
ふぅ、と溜め息をついて駅に向かって歩き始めた。
「紬!」
遠くから名前を呼ばれたような気がして立ち止まり回りを見渡す。
「紬!」
また聞こえた声の方を見るとホテルのエントランス前に向かって伸びる横断歩道の向こうにカズくんが立っていた。
(なんだ、エントランスに居たのか。)
そう思いながら手を振りまた駅に向かって歩きだした。
「紬!」
今度はすぐ近くで名前を呼ばれ、いきなり後ろから抱きしめられた。
驚いて心臓が飛び出すかと思ったが、柑橘系の香りに包まれ、それがカズくんだとすぐにわかった。
「なんだ、カズくんか。どうしたの?」
抱きしめられた腕に手を当てて少し振り向いて声をかける。
「なんだじゃないだろ!電話してって言った!」
走ってきたのか上がった息を整えながら少し怒ったように言う。
「え?ちゃんとメッセージ送ったよ。」
人目が気になり抱きしめられている腕をほどき、向かい合う。
「俺は、電話してって言ったの。」
まだ怒っているような表情をしている。
「ごめんなさい。まだお仕事中だと思って。」
何だか申し訳なくなって素直に謝った。
「昨日あんなことがあったばかりなのによく平気でいられるね。」
「別に平気な訳じゃないけど?!ちゃんと気をつけてたつもりだよ。」
その言い方にカチンと来てついつい私も怒り口調になってしまう。
「紬はわかってない!」
そう怒鳴るといきなり手を繋いで引っ張るようにホテルに向かって歩き始めた。
ふと回りの視線が気になった。
パリッと高級スーツを着こなしたイケメンはこんな街中で立っているだけでも目立つのに、量販店で購入したモコモコのジャケットにジーンズ、靴はスニーカー、首にはマフラーをグルグル巻き付けた子供っぽい女の手を引いて歩いているなんて…
「カズくん?ちょっと、みんな見てるよ!」
「かまわないだろ」
「え、でも…」
そうこうしているうちにホテルに着いてしまった。また従業員入り口から入るのかな…と思っていたのになぜか堂々とエントランスから中に入り…手も繋いだまま…というか握りしめられて引っ張られてると言う方が正しいか。
「カズくん、もう離して、ね、離して。」
思わず小声になる。
ホテルスタッフの皆さんはさすがにプロらしく表情は変わらないが、明らかにチラッチラッとこっちを見ているのがわかる。
「離さない。」
きっぱりと言われる。
(えー?!もう…どうして…)
「この方は私の大切なお客様なので、このまま私の部屋に通します。」
フロントスタッフにそう声をかけ、細い通路にある従業員専用エレベーターまで手を引かれて歩いた。
カズくんは勢いに任せてエレベーターのボタンを力強く押した。怒っていることが痛いほど伝わる。
エレベーターが来るまで無言で待った。
手はきつく握られたまま。
程なくしてエレベーターが来てドアが開いた。
カズくんが先に入り、手を引かれながら私も中に入った。
「あの…カズくん?もしかして…怒ってる?」
下から顔を覗き込んでおずおずとたずねる。
「もしかしてじゃない。怒ってるよ」
刺々しい言い方とは裏腹に優しく抱きしめられた。
(えー?!)
「守るって約束したのに、ちゃんと手の届くところにいてくれないと守れないだろ。一人で帰ったりするなよ…心配するだろ…」
段々と弱々しい声になる。
「カズくん。心配かけてごめんなさい。でも、誰かに見られたら困るから…ちょっと離して…」
抱きしめられている腕の中で身じろぎをする。
カズくんは 離さない とでも言うように腕に力を込めた。
「見られてもかまわないよ。さっきも言った。」
「でも…」
「見せてる。わざと。」
(え?わざと見せてる…って…)
「で、でも 今は誰も見てないよ!」
「誰も見てなかったら抱きしめちゃいけない?」
「え、そ、それは…」
全くもって屁理屈だ。
ポーン
エレベーターが四階に着いた。
カズくんはまた私の手を引いてズンズン歩く。途中秘書室の前を過ぎるときも手は離さず
「しばらく誰も通さないで下さい。たとえ社長でも。お願いしますね。」
サラッと爽やかな笑顔でそんなことを言うカズくん。私はどうしたらいいかわからずとりあえず引きつった笑顔で会釈をした。
綺麗な秘書のお姉さん達は明らかに嫌そうな顔を私に向ける。(何であんたなんかが副社長と手を繋いでいるの?)と言いたそう。
あまりにも過保護な様子に戸惑う。
過保護だよね…過保護なのに笑顔はまだ見せてくれない。



