本当の恋とは言えなくて

ガチャ!

突然乱暴にドアが開けられたかと思うと

「一翔!お前何してる!」
重厚感のある低音、威圧感のある声で怒鳴られた。

余韻を残しながらそっと離れ、頬を包んでいた両手で私の肩を抱き、庇うように懐に抱き抱えた。

「父さん、失礼じゃないですか?秘書から聞きませんでしたか?誰も通さないようにと。 」
負けず劣らず威圧感のある声と言い方に驚く。しかも…(父さんって、しゃ、社長?!)

続々とおこる思いがけない事に頭はもうパニックだ。

「そんな女連れ込んで!遊びはここ以外でやってくれ!人の目が無い所でな!」
怒り心頭…と言った感じで、私の方が申し訳なさで目をギュッとつむる。

「遊びだなんて、そんなわけ無いじゃないですか。私と紬は結婚を前提にお付き合いしています。」

「な、何だって?!」
頭から湯気が出そうな勢いの社長さんだが…
(何だって?!…と私も言いたい。)内心そう思っていた。まだ彼の提案にOKの返事もしていないのに!

「用事が無いのならここから出てもらえますか?まだ紬と大切な話があるので。」

(無表情でキツいこと言う!)

「大切な話し?本当かな。誰の目があるかわからんこんな公の場で堂々とイチャつきおって!」

駒山さんはさらに怒りをあらわにして近づく社長にスタスタと向かい、片手で押しながらドアを開けた。
「どうぞお帰り下さい」
有無を言わせない調子で押し出す。

「こんなことをして許されると思うなよ!」

捨て台詞を最後まで聞きません!とでも言うようにバタンと勢い良くドアをしめた。

「…すみません、驚かせて。」

「ほ、本当ですよ。ホントにキスされるかと思いましたよ~。ハハハ…」

駒山さんに両手で頬を包まれ…顔が近づき…明らかにキスする格好だったけど、右手の親指を私の唇にあててカバーし、その親指に口づけたのだった。

「父の足音がしたので説明する間もなくあんな事を…すみません。」

「でも、まぁ…何となくお察ししました。お父様とあまり良い関係ではないみたいですね。」

私の言葉が図星だったようでうつむいて黙り込んでしまった。

「わかりました!私でお役に立てるなら。お言葉に甘えて恋人役、やらせて頂きます!」
わざと明るい声で言ってみる。
もともと無表情な駒山さんの表情がさらに無になっていくようで心配だったから。

「紬先生…」

「あの、じゃあ、まずはその『紬先生』っていうの、やめません?人前でだけ『紬』と呼んでたらボロが出やすくなるでしょ?だから普段から『紬』と呼んで下さい!」

ハッとしたように顔を上げる駒山さんの耳は真っ赤だ。
もしかして、女の人にあまり慣れて無い?…んな訳ないか!こんなイケメンほっとく人いないよね。

「それから、敬語もやめましょう!私は…そうだな、一翔さん…カズくん…カズさん…どれがいいですか?」

「お、お好きなように…」

(何だか照れてる?)
可愛いと思ってしまった。

「うーん、じゃあ、一番呼ばれてなさそうな…カズくん、で!」ニヤリと笑ってそう言うと

「そんな風に呼ばれたことは無い。」


頭をかき耳を真っ赤にする姿にキュンとする。

「それと…私から一つお願いが。」
カズくんの顔の前に人差し指を立てて言う。

「な、何?」

「笑顔は多めでお願いします!いつも無表情だから、実は私 カズくんに嫌われてるのかと思ってて」

「いや、嫌いだなんて!」

「じゃあ、笑って見せて?」

両手を後ろでくみ、ねだるように顔をかしげて見せる。

「俺、仕事以外で笑うの苦手なんだよな…もともと表情に感情を表さない方で。仕事では意識して笑うから…気持ち悪い作り笑顔だろ?」

「えー?そんなこと無いけどな。素敵な笑顔だよ!」

素直にそう言う。

「…。」

無言のカズくんを見ると

口元を隠して今度は顔まで真っ赤だ。

「いいよ、無理せず、そのうちで!でも、みんなの前では偽装だとバレないようにお仕事モードで笑顔、お願いします!」

「わかった!頑張るよ。」

そう決意したように言うカズくんは思いっきり真顔だった…やれやれ。