(ジルベルトお兄様...)

流石に知っている名前が出てきて私は顔をあげてしまった。綺麗な黒髪はヴァンビルゼ家の象徴するものだ。そして、私はその顔に身に覚えがあった。いや身に覚えというレベルではない知っている顔だ。

「お兄様!!どうされたのですか?」

そう言って馬車から身を乗り出した。可愛らしい顔の少女...
私は泣きそうだった。

「ミッシェル!危ないだろう。大丈夫なんともないよ。」

(ミッシェル...)

私の可愛い妹。私のせいで何度も殺された妹。どんな時も最後まで味方でいてくれた妹。
そんな妹が今目の前にいる。元気な姿で。笑顔で。

「シャルねぇちゃん...」

小さくカリーが呟いた頃には、もう私は涙が止まらなかった。カリーが心配そうに見つめる中、私は彼ら元兄弟たちを見ていた。

『シャル...戻りたい?』

私はその言葉にはっとした。
私は何の為にあの家から離れたのか。

(私はもう戻らない...)

彼ら元兄弟たちにとってもそれが最善だろう。

「君たちの方は...君名前はっ!?」

私が顔を上げたことから、ジルベルトと目がバッチリ合ったかと思うと、ジルベルトはどこか驚きや焦りのある表情を見せた。

「シャロル...です。」

「...そうか...シャロル、いや何でもない君たちが無事ならいいんだ。では私たちは失礼するよ。」

そう言いつつも、何か気になることがあるように考え込みながら馬車に乗り、ジルベルトは消え去った。

(まさか...ね。)

ジルベルトが私を知るはずがないと思いつつも、私はどこかもう一度名前で呼ばれたことに喜んでいた。

「まだ未練があるのかな...」

「シャルねぇちゃん!!俺...俺のせいで!」

流石に怖かったのか、カリーは急に泣きじゃくった。

「大丈夫、大丈夫...」

そんなカリーを私は優しく抱き、背をさすった。
_._._._._._._

「シャルねぇちゃん俺もっと強くなる。シャルねぇちゃんが今日俺を守ってくれた様に、俺もいつかシャルねぇちゃんを守れるようになるから。だから...だからそれまで待ってろよ!」

帰り道カリーは急にそんなことを言った。
その背が私にはとても力強く感じて、涙ぐみそうになった。

「あーやっぱ未練なんてなかったぁー」

私はそう街並みの隙間から見えている夕日に向かっていた叫んだ。

「未練?」

「ううん...何でもない、待ってるよカリー。私を守ってくれるその日を...」

私はそう言ってカリーに満円の笑みを送った。
_._._._._._._

「いい匂いがする...うちからだ!!」

家の前まで行くとどうやら食事の用意をしてくれているようで、とてもいい匂いがした。

「「シチューだ!!」」

私とカリーは声を揃える様にそういうと、5階まで走り出した。

朝より疲れているはずの体は、不思議と朝の時より軽やかで、息も上がらず家に着いた。

(あれ?息が上がらない!)

『だからー』

「「ただいま」」

エトの話は本当に本当に気になるのだが、今の私にとってはシチューの方が大切だった。

『もーーーーー!!!』

「おかえりー!」
「おかえりなさい。」

台所には母さんのソリアとエンディーが並んで料理をしていた。
ちょうど完成するようで、もう盛り付けの段階に入っていた。

私とカリーはその盛り付け終わった皿をテーブルへと並べて居るとそこにもう1人帰って来る人がいた。

「ただいまー!!」

元気に入ってきた大柄な男は、父さんであるドムリだった。

「父さんおかえりー!!」

元気に私もそう返すと、急に私を抱き上げた。

「今日もうちの娘は可愛いなー」

そのまま顔をスリスリされそうになるのを手で阻止し、私は下ろしてもらった。
ドムリは悲しそうにしつつも今度はカリーの頭をワシャワシャと撫で、これまたカリーに嫌がられていた。

(いいなーやっぱこういうの...)

和やかな家族団欒がとても暖かく感じる夜だった。

(おやすみ...)

大きなベットに家族全員が寝っ転がる形で私は眠りについ...

『寝かせるかボケーーーーーー!』

エトの声が頭に響き私はぱっちり目を開けた。

(なっ何でしょう?)

『何でしょうじゃないわよ!あれだけ私の事ほっといて...っで聞くの?聞かないの?』

(えっ何の話...)

『...はいじゃもーいですぅー』

(待って待って嘘だから!!お願いです!聞かせてください!)

エトが可愛く拗ねている情景が見えつつも私は、そう丁寧にお願いした。

『よろしい...でもやっぱ声だけじゃ話ずらいから〜』

パチンッ

指を鳴らす音と共に私の視界は暗転し、次に目を開けると何度も来たあの野原にいた。