「シャロルいい名前だ。」

「シャロルのような人と婚約できて幸せ者だな。」

「シャロルならできると信じてる。」

「シャロルなぜあんな事を...」

「リリアーネならそうはしなかった。」

「リリアーネなら...」

「リリーなら...」

「リリーと婚約できれば...」

 エリオットとの思い出の数々がフラッシュバックされパッパっと場面が入れ替わる。

(これは走馬灯かしら?)

 しかしその思い出の数々は知らない場所での出来事であり、シャロル達もどこか年をとっていた。

(それにしてもリリアーネっというのはどなたかしら?)

 そんなことを思いながら何も出来ずただ変わってゆく情景を眺めていた。

「シャロル・エト・ヴァンビルゼこれをもってそなたとの婚約を破棄させてもらう。」

(なっ!!あああああああ)

 エリオットのその言葉を聞いた途端、私は全てを思い出した。

 シャロル・エト・ヴァンビルゼは私の過去の全てだった。
 一周目はただエリオットの事が好きで、光の巫女であるリリアーネに嫉妬して、いじめて婚約破棄されて、その後は下町でいいように使い古された最悪の過去。その周回で死んだ時にあの人と出会ったんだった。
 国家創像のひとり、光の女神ラダ・アラクネ。彼女が創造主の1人になる前はエトという運命の神として生きていたらしく、私はその力を分け与えられ、一つの書き換えができるようにした。
 次の周回では私がリリアーネに嫉妬しないように書き換えた。
 しかし結果は同じだった。
 その後も、リリアーネとエリオットが恋に落ちないようにしたり、リリアーネが光の巫女に選ばれないようにしたりと何度も繰り返した。そして十周目が終わった所でここに来てまた全てを思い出しもうどうでもよくなった。
 今まで私はエリオットに執着し続けたために失敗を繰り返したのだ。
 だから十一周目の書き換えは私がエリオットに恋をしないように変えたそして今に至る。

「はぁまた結局死んだんだ...」

「お疲れ様〜シャル」

 情景がまた移り変わりさっきエトと出会った場所に来た。

「ただいま...エト。」

 そう言って作り笑いではない、自分の本当の笑顔が出た気がした。

「今周期で終わっちゃうかと思ったのに〜また帰って来ちゃうなんて...ほんっと〜にかわわいそうな子なんだから。」

「いやいやでも結構惜しかったんじゃない?」

「まあねーあのクズに惚れないだけ今までよりずっとマシだった。」

「クズって一応子孫なのにww」

「子孫でも可愛いシャルにあんな事するなんてクズはクズよ。」

 エトとそんな今周期の話をして、あっという間に時間は過ぎていった。

(エトがいて本当によかった。)

 初めて出来た友達に私はそう思った。

「そういうことは口で聞きたいんですけどー」

「あ...聞かれちゃった?」

「も〜私一応神なんだから、シャルの心はお見通しよっ!!......あっそろそろみたい。」

 楽しい時間はあっという間に過ぎ、また次の周期が始まろうとしていた。

「じゃあ、始めるよ...時空さまよいし魂よ。我の名を元に祝福を与えたまえ。汝望む道よ指し示す。汝求む書き換え示せ。」

「私は...........」

「ふふふっいい選択ね。...汝の望むよう書き換える。汝に幸あれ。」

「行ってらっしゃい...シャル。」

 眩しい光に包まれ、目をつぶった。
 _._._._._._._

「.......ねぇちゃん!....シャルねぇちゃん!!」

「えっ?」

 気が付くと横には私をねぇちゃんと呼ぶ少年がいた。その服装を見るに、貴族ではないことが分かる。つまり書き換えは上手くいったようだ。

(あれ?なんで?記憶持ったままじゃん!!)

『いやーなんかこの方が面白いと思ってー』

(その声は...)

「エトっ!!」

「なんだよシャルねぇちゃん。急に大声あげて、とうとう起きてる時までおかしくなったのかよ。」

「ごめんカリー、ここはあと任せる!」

「はぁぁぁ!!なんでだよっ!」

 そう言いながらも私の持分の洗濯を引き寄せるカリーを横目に、私は人影の少ない場所へ移動した。

(っでどういう事なのエト。)

『どうもこうも、今周期こそは上手く行きそうだったから...』

(なんか隠してない?)

『んーそれはシャルしだいなんじゃないかなぁ起こるかもしれないしー起こらないかもしれないって感じ。』

 曖昧な話し方にどこか納得出来ないような気がしたが、こういう時のエトは今私に話しても分からないだろうからわざと黙っている事を知っている。だから私はそれ以上聞こうとは思わなかった。

(まぁーいいや...じゃこれからよろしくね。)

『はーい。』

 神様らしからぬその気軽い声との回線はそう言って切れたようだった。

(さて、カリーの所に戻る前にちょっと頭ん中整理しないとねー)

 今周期で私は出生から書き換えて貰った。
 今の私は、シャロル・エト・ヴァンビルゼでは無い。ただのシャロルだ。
 普通の平民で、家族思いの父、ドムリは傭兵、優しい母、ソリアは針子の仕事をしているようだ。そして、面倒見のいい姉エンディーとなんだかんだで姉思いの弟カリーっとそんな感じか...

 めちゃくちゃいいじゃん!

「カリーありがとね。あとは私やっとくから遊んどいで〜」

 頭を整理し終えると私はカリーの元へ戻り、そうカリーに告げた。

「よっしゃーじゃあ行ってきます!あ帰る時は呼べよ。シャルねぇちゃんだけじゃぜってー持ちきれないだろうし。」

 そう言って近くで遊んでいた少年達の元へかけて言った。

「なんだかんだいい子よねー」

 カリーの姿を見送り洗濯に戻ると、そう声をかけてくる子がいた。赤髪の天パが可愛い女の子...ネネだ。

「おはよーネネ。」

「おはよう!」

 ネネとはここら辺の子どもの中で唯一の同い年で、昔からよく話すの仲だった。

「そういえば私もうすぐ15なんだ...」

「えっ!?じゃあもうすぐ洗礼の儀かーおめでとう」

 洗礼の儀とは15歳になると受ける儀式のことだ。春夏秋冬と1年に4回行われどれか誕生日に近しい時に受ける。その儀で何の神の加護を受けるかで将来の職にも関わる平民には大事に行事である。

(私はどんなに周回をしても、淑女の神だったなー)

 そんな別周期の事を思い浮かべながら私はネネの話を聞いた。
 洗礼の儀は平民女子にとっては初めてオシャレ出来ると言っても過言はないほど、綺麗な白服を身に纏う。貴族の淑女達でさえこの儀式は1年前から用意する人もいる程力を入れていた。

 そんな話をしているうちに、洗濯を終え家に帰ることになった。

「カリー帰るよー」

「はーい。」

 カリーが少年達に別れを告げると、駆け寄ってきた。

「んじゃこっち俺な!」

「えっ私もっと持つよ?」

 あまりにも違う配分の仕方に驚くと、カリーはそれでも持つと言った。

「だってシャルねぇちゃん同年代の奴らよりひ弱じゃん。」

 グサッ

「たっ確かに...」

 発育のいいネネを見た後だからか、余計に自分の背の小ささに反論出来なかった。

「でも〜お姉ちゃんなのに!!!!」

「はいはい」

 5歳も年の差があるにも関わらず。カリーに窘められる様な態度を取られたまま帰路に着いた。
 _._._._._._._

「はぁはぁたっだいまー」

 私たちの家は集団住宅の5階にあり、家に着くといつもこんな感じだ。

「おい大丈夫かよーだから全部持つかって行ったんだよ。」

「いっいや...もうこれ以上お姉ちゃんという専売特許に傷が着くのはー」

「はいはいわかったから、そこ座ってて水汲んでくる。」

 自分の体力の無さに嫌気がさしながら、私は家に入ってすぐのダイニングのような場所の椅子に腰かけた。

 タッタッタッ

「あれ?カリー?水持ってくるの早くない?」

 ガチャ

「シャロルとは君のことかな?」

 入ってきたの顔の整った綺麗な美青年だった。

「はい?」