「君にはガッカリしたぞシャロル!!」

金をこれでもかという程施された壁、天を見れば今にも落ちてきそうなほど大きなシャンデリア、その下には自分の財力と比例するかのように着飾る人々、そんな人々の視線は今ひとつに向けられていた。

「聞いているのかっ!」

(あぁなんだったしら?本当に面倒臭いわ。)

シャロルと呼ばれた女性は心底どうでもいいように声のする方に目を向けた。

「しっかりと聞いていますわ。ですが、用がありましたら早く仰って下さいませ。わたくしは婚約者がいるにも関わらず他の女性をかまっていられる余裕はございません。婚約者様。」

そうシャロルは言い切ると目の前にいる男性の後ろに隠れた女性をちらりと見た。

「なっそなたはとことん卑劣な...あぁもういいそなたに謝罪を求めたのが間違っていたのだな。

シャロル・エト・ヴァンビルゼこれをもってそなたとの婚約を破棄させてもらう。」

一呼吸置いて大々的に宣言されたそのセリフに傍観していた人々が騒ぎ出した。

(はぁー本当に煩い人達...)

婚約破棄を言い渡されたシャロルはそんな事もどうでもいいように周囲を見やった。

(もういいわ。いい加減終わりにしてしまいましょ。)

そう思うと同時にシャロルは完璧な淑女の礼をした。
これには傍観者も声を忘れるように見とれていた。

「婚約破棄喜んでお引き受け致します。皆様も多大なるご迷惑をおかけ致しましたわ。」

微笑みを浮かべながら告げたそのセリフを誰もが聞き惚れ、沈黙が生まれた。

「しかし、わたくしは間違ったことなど何もしていませんわ!!ですので、謝罪なんてしないっ私と婚約破棄したこと一生の恥としなさい!!」

令嬢とは思えないほどの大声に今度は呆然とする人々をよそにシャロルはその場を退場した。
_._._._._._._._

シャロル・エト・ヴァンビルゼ
彼女の運命は生まれたその瞬間から決まっていた。
ハイルツェン王国の創造主を祖先にもつ第四公爵家のひとつヴァンビルゼ家に生まれた彼女は、同じ年に生まれたエリオット・ウィル・ハイルツェンとの婚約が決まっていた。
ハイルツェン王国では代々次期皇太子が生まれる年に第四公爵家のどこかに女児が生まれることになっていたからだ。
その言い伝え通り、ヴァンビルゼ家に女児が生まれたのである。

そんな彼女は貴族令嬢なら誰もが羨むような優雅な暮らしをいていた。

ーとあるパーティで(シャロル10歳)

(つまらないわ)

今日はシャロルの社交界デビューパーティであったが、当の本人はテラスでつまらなそうにしていた。

「シャロル?ここに居たのか探したぞ!」

エリオット・ウィル・ハイルツェン
輝かしい黄金の髪、そしてシャロルを見つめるエメラルドの目。皇族の特徴を強く受け継いでいる。

「殿下...何か御用がございましたか?呼んでくださればわたくしから参りましたのに...」

先程の表情などなかったように美しい笑顔を浮かべると、シャロルはそうエリオットの方を向いて答えた。

「殿下だなんて...2人きりの時くらい名前で呼んで欲しいんだが...まぁいい。用なんてないさ君に会いたかっただけだ。」

少し照れ気味に微笑むその姿はどこか可愛らしくもあった。
そんな彼を横目にシャロルは背を向け、外の景色へと目を向けた。夜だからか園庭は暗がりに包まれ、どこか寂しさを。その奥暖かく輝く街の風景が、シャロルには酷く遠く感じられた。

「...シャロル?」

「殿下、わたくしそろそろ疲れてしまいましたわ。失礼と存じますがわたくしはここで退場させて頂きます。」

何を思ったのかシャロルはふわりとテラスの先に飛び乗った。

「シャロルっ!!」

そしてそのまま真っ逆さまに落ちていった。
_._._._._._._

わたくしにとってこの世界は狭いものでした。子どもの頃から親の元を離れ、ずっと皇城での暮らし。
確かに皆様の言う通り、わたくしはとても恵まれていたのでしょう。しかし、欲しいものがすぐ入ってしまうというのもなかなか寂しいものでした。
ある時側仕え達が街の話をしているのを聞いてしまったのです。それはわたくしの全く知らない世界でした。
いつか行ってみたいにそう決意したのはわたくしが6歳の頃でした。
しかし残念なことにその夢は叶わないのだと感じました。
皇后になるための勉強が始まると、ずっと部屋から出ない生活が続きました。
本当につまらない日々でした。
だから初めてのパーティーに少し期待をしていたのです。それなのでとても残念でした。あんなに社交界がつまらないものだったなんて。
もういい。
そう思ったのです。
......。

「....ロ....ロル......シャロル」

誰でしょうわたくしを呼ぶのは、わたくし死んだはずなのですけれど...

「私の声が聞こえますか?シャロル」

穏やかそうな声がわたくしを呼んでいた。

「誰なの。」

「ふふっ何も変わらないわね...シャロル会いたかったわ。」

そう穏やかそうな声が言うとわたくしの視界は白い靄が晴れるように広がった。

(どこかしら?)

いつの間にかわたくしは裸足で、白いワンピースのようなものを着ていて、輝かしい太陽と風に揺れる草花の野原が広がっていた。

「こっちよ。」

声の方へ振り向くと、白い髪に白い肌、白いドレスを纏った女性がいた。

「貴方は?」

「まぁまぁそう焦らないで、ささっここに座って!」

言われるがまま席に座り、注がれたお茶を一口飲んだ所で異変に気がついた。

「うっ...」

「ごめんね...」

バタッ