理人さんは少しだけ首を傾げながら、目を細めた。

「自覚した方がいい。あなたは自分で思っているよりずっと、顔に出やすい」

 それは、私の嘘なんか見抜いている、そう宣言したにも取れる。私はやっと顔をそむけた。これ以上、見られたくない。

「何がですか、別に私はいつでも正直ですよ」

「ふうん。そんなに後ずさってソファから落っこちるくらいなのに?」

「きょ、今日はそういう気分じゃなかっただけです! それくらいわかりませんか、女心は繊細なんですよ!」

 カッとなって言い返すと、理人さんは困ったように笑った。しょうがない人だ、と言われているみたい。その余裕綽々な様子が、あまりに苛立つ。

「分かりました、そうですね。そういうことにしておきましょう。
 一つだけ、あなたに教えてあげます」

「え?」

「僕から結婚を断ることは絶対にありえない。
 それだけ、教えておきます」

 彼はそれだけ言うと、飲み途中の酒を一気に飲み干し、そのままリビングから出て行った。残された私は一人ぽつんと床に座り込んだままだ。唖然としたまま、彼が出て行ったドアを見つめている。

 見抜かれてる? 私が結婚を断ってほしくて嫌な女を演じてること。

 それに何より、最後のセリフ。理人さんから断ることは絶対にありえないってどういうこと? やっぱり、何か裏があるんだ。私は知らないことがあるって断言していた。隠し事があるんだ。

 今更震えがきて、腕を抑えた。俯き唇を噛む。

 今日朋美と話したことが、あながち的外れではないかもしれない。うちの会社に何らかの恨みでもあって、完全に潰すためにすべて計算の上話が進められた。陥れられた?

 もし本当にそうだとしたら、もう私にできることなんて何もないんじゃないか。

「くそ……震えが収まらない」

 悔しさに呟く。

 震えと同時に残された、この胸の苦しさは、

 一体何だというのか。