そう必死に立て直そうとするが、なかなかうまくいかない。まず赤くなってしまった頬が戻らない。そんな様子がバレているのかどうなのか、理人さんは続ける。

「やはり送れなかった分はそのあと一緒に送るようにしますか。送れそうにないときは事前に言っておきますから」

「は、はあ」

「これでも仕事は忙しいんですよ。父たちは人使いが荒くて」

「まあ、あの八神ですからね」

「ただ仕事はそれなりに楽しくやっています。責任もありますし重圧もありますが、僕は一応八神の人間ですから。当たり前のものだと思っています」

 私はふと隣の理人さんを見た。彼はどこかをじっと見つめながら、楽しそうな様子で言った。

「八神もね、やはり今まで何度も危ないことがあったんです」

「あの八神グループがですか?」

「僕もまだ働き始めてそんなに長くないですが、大きければそれだけ人数もいるので、いろんな問題があふれ返っています。もちろん利益は大事、社員の生活が懸かっているのでね。でもそれだけでもいけない。時代に合わせた働き方も考える必要がある」

「働き方……」

「隅々まで目が届かないところはあります。でも言い訳にならないですからね。
 大事なのは誠意と優しさです。それは内部だけではなく、関わる全ての人に」

 私は目を丸くして理人さんの横顔を眺めた。

 それは亡き母が、口を酸っぱくして言っていた内容と同じだった。

 祖父も母もそうやって、小さいながら会社を経営してきた。社員のことを考えて必死に踏ん張ってきた。父にはその努力や考え方は何一つ伝わっていなかったようだけど、母たちのやり方を覚えてくれている社員もいる。

 やり方が厳しい、と有名な八神も、根本では同じものを持っているんだ。優しさと、誠意。八神があれほど大きくなったのも、人知れぬ努力があったからなんだろう。

「……と、いうのをまだ勉強中です。父や兄からの受け売りです。兄とは結構年が離れてますし、後継ぎと昔から決まっていたので、さすが厳しいです」

「そうなんですか……」

「内心このくそって思ってること結構あるんですけどね」

 理人さんからくそ、なんて言葉が出てきたのがなんだか面白くて、私はつい小さく噴き出した。彼は気を害することなく、むしろ嬉しそうに続ける。