それでも、そんなことすら叶えさせてもらえない。もしかして、理人さんのペースに乗せられている?

「今日、どこの店に行きたいとかありますか」

 彼はそう尋ねた。私は齧っていた食パンをやたら咀嚼した。その間に、返答を必死に考えていたのだ。正直、ブランドものなどには疎い方だ。

 悩んだ挙句、私は相手にゆだねることにした。

「任せます。理人さんがよく利用されるお店に」

「分かりました。とりあえず雑貨と洋服、などでしょうかね。朝食を食べてゆっくりしたら行きましょう。そうだ、京香さんの好きなものはなんですか? 色や、テイストなど」

「え? ええと……い、いろんなものが好きですよ。パッと見てピンときたら買います」

「なるほど。そのワンピースもですか? よく似合っています」

 サラリとそう褒められ、一瞬面食らってしまった。先ほど、自分では着こなせていないと思っていた母の形見を、そんなふうに褒められるとは思っていなかった。
 
 真に受けるだけ損だ、そんな深い意味はない。そう自分に言い聞かせるものの、顔が自然と緩んだ。それを隠すように、私は必死に食パンをほおばった。




 食事のコーヒーをゆっくり飲み、特に会話もないまま時間をつぶしたあと、私たちは街へ繰り出した。

 まず、理人さんに案内されて駐車場にとめられてる車に乗り込んだ。説明するまでもなく、高級車だった。扉を開くときに傷でもつけたら、と緊張していると、彼がちゃんと開けてくれた。そんな行動をとる日本人がいるだなんて知らなかった私は、目の前をちかちかさせながら、それでも必死に平然を装った。されて当然です、という顔をして車に乗り込んだのだ。その際、頭を少し打って痛かったのはここだけの話。

 綺麗に掃除が行き届いた車は立派なものだった。理人さんの運転で出発する。ここでも私は気を抜くことなく、スマホを見て態度を悪く見せた。途中酔ってしまい、何も映っていないスマホを眺め続けたのも内緒だ。

 しばらく経ち、人混みが見えてきた。彼はスムーズに駐車場に車を駐車した。私は今度は自分で扉を開け、(隣にぶつけないよう細心の注意を払った)地上に降り立ったのだ。

 ブランド店ばかりが入っていると有名なビルだった。