あれから半年、父たちとは連絡をとっていない。というか、取れないようにしてしまっている。何かあれば理人さんを通すように、とのことで、私は着信拒否をしているのだ。

 時折理人さんはこうして現状を確認している。何か逆恨みでもされたら困るから、とのことだ。今のところ、そんな様子はまるでないので安心している。

 二人が離婚しようが私には関係ない。とにかく二度と目の前に現れないでいてくくれば、それでいい。

 ぼうっとしながら寒い空を見上げた。もうほとんど暗くなっている。分厚い雲があり、星はまるで見えなかった。

 父が再婚する、なんてことになってからもう九年経つ。すべてが狂いだしてから早かった。今、ようやくお母さんにもおじいちゃんにも、胸を張って会える気がする。

「……で、朋美さんも言ってたけど、結婚式どうする?」

 ぽつりと理人さんが言った。私は隣を見上げる。

「言ってた通りだと思う、多分会社のみんなは温かく見守ってくれる。この半年バタバタでそんな暇なかったけど、そろそろ自分たちの時間をとってもいいかな?」

 こちらを覗き込んで言う。なんとなく恥ずかしくなって俯いた。

 とっくに籍は入れたけど、仕事仕事で追われる日々。正直新婚なんて感じは薄かった。休日も疲れたように寝てしまうか、仕事をこなしているかで。

 でもやっと許されるなら、ちょっとくらい……贅沢したい。

「できるなら、それは、嬉しい、かも」

 小声で返したけれど、しっかり聞こえていたようだ。彼が目を細めて笑った。

「よしテンション上がってきた。まずは式場から探そう、日本か、海外という手もある。あ、和装なら日本ってことになるかな。新婚旅行を兼ねて海外とか、そこまでじゃなくても国内で遠出してもいい」

「え、あの」

「ドレス選びは楽しみだなあ。お色直し何回する? ああ、招待客……うちは無駄に多くなりそうなんだけどな、そっちどれくらいになりそう? てゆうか父に言ったらすごく喜びそうだなー」

「あ、あの、情報が多」

「新婚旅行もね。やっといけるな、京香さんと旅行は初めてか。一生に一度だから楽しまないと」

「理人さんって意外と話し出したら止まらないよね」

 そう呆れて言うと、彼がこっちを見て笑った。そして私に顔を寄せ、声を潜めて言う。

「好きな人のことになるとね」

「……」

「でも、とりあえず。
 三日も会えなかったから限界なので、式の相談より、充電したいな。急いで帰ろう」

 そう言って、手を握る力を強めた。私もだよ、という気持ちを込めて、それを握り返す。


 あなたが私を見つけてくれていなければ、今どうしていただろう。

 すべてを受け入れて、すべてを救ってくれた。

 感謝してもしきれない、この世で一番大切な人。

 今ならお母さんも、天国から笑ってみててくれる気がする。

 


 溢れた愛で、私を満たして。私もあなたを満たすから。






<完>

最後までお付き合い頂きありがとうございました!