私はさっきまでの心地よい揺れを感じず、しばらく熟睡していたらしい。

目が覚めていつの間にか、車は動いておらず横を見ると俊もいない。薫は、暗い窓の外を目を凝らしてみると、どうも俊らしき男性が膝をついてかがんでいるのが見えた。何かあったのかもしれないと、急いで車のドアを開け外に出ると、冷たい風を突然に浴びて肩をすぼめた。
俊に声をかけると、やはり胃の調子が悪いのだと言う。俊の傍に近づき軽く腕を支えるだけの接近なのに、白衣姿でなくこんなシチュエーションに私の心臓がドキドキと音をたてる。

上を見たかと言われ空を見上げると、キラキラと輝く満天の星たち、
しばらく空を見上げて、綺麗だという彼の声に互いの視線が絡んだ。
もうその頃は、暗さにも目が慣れていて、
俊の甘い瞳がダイレクトに私に伝わってくる。

自意識過剰にもほどがある。
話を変えて、今の言葉をなかった事にする
それがいい。
恋愛初心者の私には、今のは荷が重すぎる。


車の中に入ると、俊の診察をする必要があると考えた。だって私は医師なのだから、そんな考えは仕方ないじゃないかと思う。
だけど俊は苦笑いをしながら、お腹を触らせてくれない。

救急車を呼ぶなど少しだけ脅しをかけて、やっとの事で諦めて私に触診をさせてくれた。身体の熱感はまずない。腹膜炎を思わせるような反跳痛(はんちょうつう)筋性防御(きんせいぼうぎょ)もない。今すぐの緊急性はないと考えて、ホッと息を吐きだした。
心窩部(しんかぶ)(胃のあたり)に触れ圧痛があったが、胃カメラで確認が必要なのだから、明日にでも検査をした方がいい。

診察を終えてから、俊の身体に不躾に触った事がだんだん恥ずかしくなる。
ここが診察室なら問題ないけど、ここは二人だけの空間で密室で、、おまけにシャツを元に戻すとき、割れてる彼の腹筋を目にして再び自分の心臓がドキンと跳ねた。
気まずさを隠すように眠れて良かった事を話すと、俊がこの間のホテルでの出来事に惜しいことをしただなんて言うから、私は一瞬で頬を紅潮させてしまう。
でも、そう言った俊はその瞳に情欲をにじませている男の顔をしているから、さっきまでの医者の顔を装っていた私は、それを完全に失ってしまった。
だから、俊の言った言葉に素直に頷いてしまったのかもしれない。

『ここは山のてっぺんなんだけど、20分も走ると麓の町に
つく、、良かったらだけど、少し休む?』

「・・・・」
『このままの状態で、僕も長距離はちょっと無理だから』


もう、その言葉は聞こえていない。ただ、眠るだけ、、と
どうしよう?という言葉が頭の中でグルグルと回っていた。