〔恋愛遊戯〕


『52歳PCIの症例だけど。ガイドワイヤーが通過できない狭窄(きょうさく)でPTCAの後、
ステントを入れていれて経過をみてる患者がこっち』

「狭窄病変は何%ですか?」

『90%病変だね、造影剤の寒流度もグレード1と冠動脈内(かんどうみゃくない)に停滞し末梢まで撮影されてない。側副血行路(そくふくけっこうろ)だけど不良だね、ここ、心外膜側(しんがいまくがわ)冠動脈は撮影されていないなぁ』

「血流も悪くて造影剤の心筋染影があって、長時間の残存が
認められていますね」

薫が僕の横で、症例の画像を見ながら顔を寄せてくる。何だか不謹慎とは思うが、この間のホテルでも事が思い出された。仕事中なのに、集中できていない。
あの時、薫を胸の中に包んだ時に感じた香りを思い出してしまうから、始末におえない。疲れ過ぎると人間、何をするかわからないものだ

マズイだろう!仕事中だ。 したらダメだろ。 想像は良いとしても。


「片瀬先生、・・あのコレは?」
薫はずいと身を乗り出して、俊の方に身体を寄せ違う患者のMRI画像を取った。
そんな薫から甘い香りが俊の鼻をくすぐった。一瞬にして惹きつけられ俊は医者の顔を装う余裕が完全に失われてしまったのだ。

薫の呼びかける声が耳に入らない?自分であの時の事は忘れようなんて言っておいて、無理な話だったんだ。

「ふう……」彼女は声に出して息を吐いた。