そんな話の最中に机の前にある内線電話が鳴って、僕たちの上司である坂上主任教授から呼び出された。ふたりで一緒に部屋に来るようにと言われ、何だか悪い予感がした。

「二人ともようこそ、我が慶生大学へ。
片瀬先生はキャリアを積んだ循環器医で心臓カテーテルの名手だ。ウチの大学は、これで名誉も実績も最高の状況になるのは間違いないだろうね。片瀬先生、君には期待しているよ。まぁ頑張ってくれたまえ」

『はい、ありがとうございます』
「ところで、大澤学長の体調は如何かね。薫さん」

大澤学長? 彼女は学長の関係者? 

「はい、今は自宅で休養しております。ご心配をおかけして申し訳ないと父が申しておりました」

「ふ~む、そうかね?君も大変だったね。わざわざ女子医大を辞めてウチへ来る事になってねぇ、、父上は、いや学長は君に何をさせるつもりでここに呼んだんだろうねぇ?」

「微力ですが、少しでもお役に立てればと、、」
「はははッそうか? まぁ、君もまだわからない事があるだろうから、そこにいる片瀬先生に教えてもらうと良い」

「はい、そう致します」
「それにしても、薫さんは相変わらずお綺麗ですね。学長も心配でしょうなぁ、ははッ・・これで循環器も華やぐでしょう」


薫は暗然として俯き、唇をかみしめていた。上司からの歓迎の言葉ではなく、ただ薫の容姿を褒め学長の容態を聞くだけ? セクハラ?モラハラだろ?
彼女はいったいどうして慶生に来たんだ?
だが、この後の話で目的を知ることになる。

「では、薫さんは先に医局に戻ってもらうとするかな」

彼女だけ部屋から出されると、僕だけ教授の部屋に残された
そして教授が僕に、本来のミッションを言い渡したんだ。

「大澤学長はもう復帰はないだろう。悪あがきか、娘を此処に寄越すとは。新しい学長が選任されるのも時間の問題だ。僕はね、君に賭ける事にしたんだよ。君は今までのカテ法でとにかく業績を延ばしてくれ。それから、薫さんだが何も教える必要はない。なんなら、医者としての始末をしてくれ」

『・・・はい?・・始末とは?』
「女医のくせになかなかのセンスを持つらしい。父親に言われてスパイでもする気だろうが、まぁ目障りなだけだ。医者として自信を無くさせてくれればいいんだ」

『あの・・言ってる意味が』
「そうかね?まぁ、学長の娘だからって遠慮はいらないって事だよ」
『・・・・』

薫がこの慶生大学の学長の娘だったなんて、二度の驚きだった。学長の娘である彼女の存在が面白くないんだろう。教授の企みは、僕の心臓カテーテル検査や治療を武器として使い、学長が不在の間に自分がうって変わる。

漠然と自分とは関係のないとこでの話のような気でいた。これから起きる
いろんな事が、薫や僕を巻き込んで行こうとは思ってもみなかった