結局、大学の医局に籍を置いている僕らは、教授の”持ち駒”だから逆らうなんて
事は出来ない。反対意見が言いたいなら、医局を辞めるしかない

だけど、僕には簡単に辞めるなんてできない理由があった。僕をずっと愛し支えてくれた両親を裏切れないって思っていたからだ。
心配をかける年齢でもない。今でこそ、我が侭を言う母親になったけど、昔はかなり苦労したんだ。だから、僕は期待に応えなければならないと思っている。いずれは福岡の親父の医院に帰って跡を継ぐなんて事まで考えていた。
だから、今だけは自分の腕を磨いて、それに今後のためになる研究も続けていきたい。


医局の入り口に大月直也(オオツキナオヤ)がいた。大学の医学部時代からのライバルだ。サークルだって何故だか同じで、いつもアイツとは一番を競って来た。
僕がこの大学の研究室からいなくなったあの日まで

「・・おうッ来たなッ」
『ああ、また宜しくお願いするよ』

「しばらく此処にいなかったからって、手加減はしないぞッ」
『そんなの承知してるよ』
「お前が此処に戻って来た事を後悔する日が来ないようにする事だな」
『はぁ、お前は本当にトラブルが好きだなぁ。僕はお前が思うほど、
力を入れて相手をするような技術は持ち合わせていないよッ』

「そうか?そうは思えないけどな、お前も准教授だ。
お手並み拝見するとしよう」
『相変わらずだなぁ』


大月はすでに准教授だが、坂上主任教授には目をかけられていると聞いていた。だから、僕にそんな牽制をかけてくるのは理解できる。