「何も、舞子のせいだって言ってるわけじゃないのよ。ただ、最近は毎晩遅くて、私もお父様も心配で」

「私が何をしようと勝手でしょ!」
我儘な物言いに喧嘩になりそうな、そんな親子に薫が言う

「舞子、早く着替えて来なさい」

舞子が母親を睨んでから顔をプイと背けて自分の部屋がある二階へ上がる。後姿を見上げる義母は、小さくため息をついてから薫と視線を合わせて来た。


「本当に困った子」
「あの位の時期には、皆、親には反抗しますよ」
「ええ、でもあの子のは我が侭が過ぎて・・」
「私だって反抗しましたよ。今でもそうですけどね・・」
「薫さん」


義母がとても困った顔になり、私はそれ以上話すのをやめる事にした

「先に父の部屋に行きますね、舞子が来たら部屋に来るように言って下さい」
「ええ」


私も父親に反抗してきた。
大学に入る頃、がむしゃらに勉強して 一流と言われる医大に入学した。
父に良くできる子だって褒めて欲しかったから。大学生になって、この家を出て父も義母の事も気にしないようにしてきた。

年に数回帰って来た時には、舞子だけが私のそばに来るようになった。舞子がいたから、ここには帰って来ていたのかもしれない。
医師の資格を得ると 父は自分のいる場所へ私を呼んだ。でも、私は絶対に嫌だった。私は私の場所で仕事をする。それでも、父が専門とする循環器に興味を抱いてしまった。