そして僕には気がかりがあった
薫や優人に今まで主治医以上の感情で接してきたであろう坂本医師のことだ。

あの日、薫と優人を僕の実家に連れて行こうとしたクリスマスの日、空港の柱の陰から見えた薫と坂本医師の姿を目にして僕は焦った。
今年最後の優人の病院受診だったんだ。

本当は僕も受診に付き合うはずだったんだけど、航空会社のトラブルで、薫たちとはそのまま空港で落ち合う約束をして先に空港で待つ事にした。
僕の知らない薫と優人、それに坂本先生の2年あまりがあったんだろうと理解はするけど、頭では理解できても、心がざわついてしまう。やっかいな嫉妬だ。


坂本医師が優人を抱っこして、薫がその横にいた。
暫くすると 坂本医師は優人を下に降ろし、薫に視線を移す。
薫は坂本医師の言葉に、時々彼の顔を見ながら一言二言 答えている姿があった。

笑顔ではない その真剣な眼差しで薫の事をみつめる坂本医師に薫は目を逸らした。薫の腕を掴んで自分の方に向かせると、薫の表情が驚いたように固まっている。
僕の足が動きかけて、その状況に飛び込もうとした。だけど、薫の表情を見て僕の足が止まった。薫を抱きしめた坂本医師は何かを話しているのだろう。薫は首を横に振っている。
身体を離した坂本医師は薫の顔を見て話し、彼の言葉を頷きながら聞きそして口を開いた。と同時に瞳にためた涙も零れた。
薫は自分を掴んでいた彼の手を解くと、下で遊ぶ優人の手を掴んだ。
そして薫の前に立ち尽くす彼に言葉をかけ、彼はゆっくりと頷いた。
薫は優人と同じ高さに腰を落として優人に話しかけると、優人はその後、彼に笑顔で手を振った。

彼も優人に手を振ると、薫は彼を見て頭を下げる。そして歩きはじめた。
坂本医師が薫と優人の後姿をみつめていた。