柔らかな風が吹くこの場所で


「俊、俊ってばぁ、、起きて!」
『う~~~ん、ダメだ~ まだ、眠い』
「もう~~ッ、いい加減に起きないと。今日は大事な講演だって、、きゃッ」

そんな事を言う薫の腕を引っ張り、ベットの中の僕の胸の中に引き込んだ。
そして胸の中に倒れ込んだ薫の耳元で囁いた。

『昨夜は頑張りすぎで起きれない。薫ちゃん、どうしよう?』彼女は途端に顔を真っ赤に染めて、耳まで赤くしてる。
「もう~~俊ったら」

日本で一緒に住み始めて1週間が経った。僕は一度アメリカに戻り学会の成果を報告して、今後の生活の基盤を日本に戻すことを研究チームに報告した。チームの皆は残念がっていたけど、僕の幸せな結婚を心から祝福してくれた。
今回の研究の成果も上々で、日本に帰国するにあたっては地方の数か所の大学から教授の職でとオファーを頂いていたが、優人の病気の事も考え、慣れた場所から始めるのがベストだとオファーすべてをお断りした。

気楽に市中病院でも探して就職しようと考えていたら、なのにだ、、慶生大学病院からオファーが届く。
これは、どう考えても義父である大澤学長の仕業だろう。
「地方大学は行かないだろうと、オファーに関しては放置していたんだよ。都内の大学病院からは、、オファーがなかっただろう? おかしいと思わなかったのか?」と義父が悪い顔で僕に聞いてくる。

なるほど、都内の大学病院には義父が手を回していたのか?!

「娘婿がなぜ、慶生以外の大学で腕を振るうんだ? 勤めるならウチ以外はないだろ? 君の実力からすると、教授の椅子を用意して来てもらわなきゃダメらしい。教授会で決まったらしいぞ」
『お義父さん、ありがとうございます』
「片瀬くん? そんなに喜んでないな?」
『、、あははッ、、』僕はひとまず笑って誤魔化した。もう少し、薫と優人と三人での時間をゆっくり取るはずだったのだから。