俊はそう話すと、父親に静かに頭を下げる。
「しかし、薫の気持ちも、、それに舞子の気持ちはどうなる?」

父親の言葉で舞子に視線を移した。
舞子は大粒の涙を流して黙って立ちつくしている。

『舞ちゃん、ごめんよ。舞ちゃんのことは、最初からずっと妹みたいに思ってた。薫と姉妹だって知る前から、僕にとって 薫はとっても大切な人なんだ。わかって欲しい』僕はそう話すと舞子に頭を下げた。

「嫌よ! お姉ちゃんはいつでも私からいろんなモノを奪っていくわ。もう嫌なの!! 俊先生は私が本気で初めて好きになった人なのよ。」

舞子が僕に涙ながらに訴えるが、僕は何も言えない。舞子の心を傷つけた事に間違いはないのだから。
泣き崩れる舞子の手を握り、傍にいた母親が静かに話し始める。

「舞子、あなたを愛しているわ、私もパパも、、薫お姉ちゃんだってそうよ。だれも舞子から愛を奪ったりしないわ。片瀬先生は元の場所に戻るだけなのよ。舞子の事は、妹としてこれからも愛してくれるわ」

大澤学長が腰を屈めて、涙を流す舞子の頭を優しく撫でた。
そんな時、ノックの音がして部屋の扉が開いた。優人が顔を覗かせ、僕の顔を発見したみたいな嬉しい表情をする。そこに後ろから薫が現れた。

「あのね、点滴が外れたら、俊を探して、、優人が行くっ泣いてきかなくて」

優人が僕を見て笑顔を向けた。確かに彼の睫毛が濡れているようだ。
僕はそんな優人に声をかけた。
『優人、パパのところにおいで』

僕が腰を落として手をひろげると、優人が恥ずかしそうに僕の腕の中に入って来た。優人を抱き上げて、その高さに優人が満足そうに声をだす。
それを見ていた母親が舞子に言った。

「舞子、あなたもあんな風にパパの腕の中にいつも飛び込んだのよ、今の優人みたいに嬉しそうに笑っていたのよ」

舞子が優人と俊をみて、ウンウンと大きく頷いた。そして舞子が薫に言った。

「お姉ちゃん、俊先生をちゃんと掴まえておいてよ。そうしないと、私が取っちゃうからね」

薫は舞子の傍に駆け寄り手を広げて彼女を包み込んた。
「舞子、ありがとう。ごめんね」
「お姉ちゃん、ごめんね。俊先生と幸せになって」

舞子のそんな言葉に、薫は涙して何度も何度も頷いてみせた。