お腹の子供は 事件によって生まれた命ではない、
これだけは はっきりしている。
それでも、望まれない子として処理したほうがベストではないかと医師は思ったのだ。

私は 俊の顔を思い浮かべ
”だめ、私たちの赤ちゃんに、そんな事できない”
この命を、私の勝手な判断で堕胎するなんて考えられない。そう強く思った。

この子を守るために、父にその事件を伝えた。そして告発するという事も。
私の今後を思って全力で反対する父が、私を諭すように訴える。

”お前の将来はどうなると思ってるんだ?! たとえ、そんな脅しがあったにしても、お前が今後、世間に好奇の目や無神経な言葉にさらされたりする。やめるんだ!薫、お願いだ”

犯人が望むように私が大学を辞めて俊と別れたとしても、この事実を隠していれば、今度は父や俊の家族にまで危険が及ぶ。いずれは、このお腹の子にまで脅威が迫るはず。
私は父に妊娠している事を話すと、更に反対した。
”薫、それはダメだよ、すぐに処理をしなさい”

「パパ、この子は俊との子供なの。それは出来ない」
「片瀬くんが父親なのか? それは確かなんだな? 彼は知ってるのか?」
「検査で偶然にわかったの。今、8週よ。彼は知らないわ、これからも言うつもりはないの」

「なぜだ!? 彼にはその子の責任があるだろう!お前だけでどうにかなる問題ではない!片瀬くんにちゃんと話して・・そうだ、結婚して・・」

私はそう言う父に首を横に振ってみせた。
父は 「どうして?」そう言って身を乗り出した。

「彼を本当に愛しているの。こんな後だからこそ、だから彼には絶対に負担をかけたくない。お願いです。 パパ、私の気持ちをわかってください」
「それでも、お前は、、いいのか?それで?」

「彼の夢、彼の仕事をみてきた私よ。彼の将来はきっと輝かしいはずなのに、私の事で壊しちゃダメなの。 パパも医師ならわかるでしょ? たとえ彼が私の前からいなくなっても、私にはこの子がいるの。パパお願いだから 私の選んだ道を認めなくてもいいから、黙って見ててほしい」
こうやって、父に協力を得る事が、この子を守り俊と決別できる方法だった。