俊の母親は、その様子を横で見ていて震えが止まらない。とにかく慌ててしまって、俊のスマホに電話を入れたのに声が出せないでいたし、スマホは通話中のまま、母の手に握られていただけだった。
通話中の俊のスマホが母親のダイヤルだとわかるけど、なぜだか母親の声が聞こえない。聞こえて来るのは、救急車のサイレンの音がしきりに響き、そして時々聞こえて来る 薫の焦った声だった。
「その薬! そう、それです」
「スタイレットも一緒に! キシロゼリーを塗って下さい! 」
「はい、エアをお願いします。テープ!も」
俊はその声で、今が救急車の中で母の身に何かが起こったのだと理解したのだ。
電話を切ると母親の宿泊するホテルに電話を入れて、ホテルマンに尋ねると、やはり母親は救急車に乗り込んだようだ。
搬送された病院を確認するとすぐに車を走らせた。
『母さん、何が起きたんだ?!・・何で薫の声がしたんだ?!』
不安にかられ意味のわからないままに、俊は大学病院へと急いだ
「どうしましたか?」
病院の当直の医師が、ぐったりした優人をみて聞いて来る
「アナフィラキシーだと思います。車の中でエピネフリンを使いました。
呼吸困難で挿管してます。先生、優人をお願いします!」
「エピネフリン? お母さんは、、医師なのですか?」
「はい、そうです」
「あっ、あの・・そうですか、、大変申し訳ないのですが、小児科の先生がもうすぐ来ますから」
「先生?! 救急の先生や小児科の先生は?」
「実は他の急患で対応してるんです」
「そんな、、」
「とにかく処置室で、、」



