お母様が左手で涙を指で拭いながら、右手で私の手を握って来た。


「女だから、私だって辛いのはわかるわ。でもね、薫ちゃん一番大事な人はわかるでしょ? 離しちゃダメなのよ」

「・・・お母様・・・私・・」



その時、さっきまで眠っていた優人が突然に泣きながら嘔吐をした。顔面を紅潮させ、呼吸の状態もおかしい。吐物が気管に入り苦しんでいるのかもしれない。
”はぁはぁ””ぜいぜい”と呼吸と共に音が鳴る、呼吸困難を起こしている状態だった。

「優人?・・どうしたの?苦しいの?」
「薫ちゃん、大変だわッ! きゅ、、救急車よ!」

泣き叫ぶ子供の声、優人の苦しそうな顔を見て頭が真っ白だった。 お母様が私に叫んだ。

「薫ちゃん、優人くんのかかりつけは?!」
「はい、○×大学病院です。あッ!! この子アレルギーで、これはアナフィラキシーだわ!」

救急隊に事情を説明する俊の母親にそう叫んで、かすかに呼吸する優人の気道確保をした。
ふたりは優人と一緒に救急車に乗り込むと、行き先は、優人のかかりつけである○×大学病院に向かった。

薫は救急車にある薬を確認して、救急隊員に”エピネフリン”を指示した。
救急隊員は、母親である薫が医師であることを確認すると、薬の入った注射器を渡す。動く救急車の中で、優人の太腿の外側筋肉に注射する。
そして、気道が急激な浮腫(むくみ)によって閉塞しようとしているために、挿管チューブをぐったりとした優人の喉に入れた。