いつの間にか、坂本先生の車の後部座席にはチャイルドシートが
備え付けられていて、それを見るたびに私は申し訳ない気分になる
今日も坂本先生が優人をそのチャイルドシートに座らせて、
シートベルトをしっかりチェックしてる。
「さぁ、これで大丈夫だ! 行きましょ、薫さん」
「坂本先生? アノですね、お母様がせっかくいらしてるのだから、私たち親子にかまうよりも、お母様をご満足させてあげたらって思うんですよ」
「うん? 薫さん、ウチの母ね、薫さんに会いたいらしいんです。
僕が前から薫さんの事を話してましたから、、ね」
「坂本先生、困ります」
「とにかく、僕へのお礼のつもりでもイイですから、付き合って下さいよ。
良いですよね? 薫さん」
坂本先生にお礼のつもりで食事に付き合って欲しいと言われ、無碍に断る事なんて出来ない。私は坂本先生の車に乗るしかなかった
僕はその日、母さんが上京してくる事を事前に知らされていた。いつもなら突然に僕の前に現れる母さんが、電話を入れて来たんだ。
そして、僕にはたっぷり時間があるし、羽田に母さんを迎えに行った。
「俊ちゃん、日本に帰ってきたのに何も言わないんだから!それに、どうも独りじゃないみたいねぇ?」
『はぁ? ええ? 一人だよッ! 何なんだよ~? その顔?!』
母が僕の顔を見ながら、とってもニヤついてうっすら笑みを浮かべる。
「ふふッ女の子付きみたいだし~?」
『ええ~ッ? 誰? あッ・・まさか?!』
「うふふッ また、私に隠そうとしてるでしょ? 別にイイじゃない?!
俊ちゃんは昔から 私には紹介してくれないからねぇ」
『し・しただろ?!』
「何を?」
『紹介だよ、僕はしたよ』
母さんがすこし驚いたように瞬きをする。
「・・・あッ!! 薫ちゃん?」
『うん・・』
「そうね、で・も・・」
僕は母さんが何かを言う前に、自分に言い聞かせるように言った。
『薫以外は、母さんに紹介しようと思う女性はいないから』
「・・・・俊ちゃん」