玄関に入り、明るいところで義母の顔をみて挨拶をする

「ご無沙汰しています。雨の中、ありがとうございました」
「いいえ、そんなこと。薫さん、突然にお電話してごめんなさい、それにこんな雨の中急いで来てくださってありがとう」


義母は申し訳なさそうに私にそう話す。私が10歳の時、この家に父親が連れて
きた女性だった。子供の私に相談するような父親ではなかったけれど
実の母親を亡くしてわずか1年後の私には、結構ショックな事だった。
義母はすぐに父親の子供を身ごもって、私の腹違いの妹の舞子が生まれた。

大学に入学と同時にこの家を出てから、数回ほどしか帰って来ていないが
我が家は懐かしさもあるけど、すでに他人の家のようだった。
勿論、今まで父親とも年に数回会うだけの間柄だったから。


「父の様子はどうなんですか?」
「ええ、今は落ち着いて良く眠っています。さっきまで大学の先生方が大勢いらしてて、、」
「そうですか、それじゃ命に関わるような事じゃなかったんですね」
「ええ、そうみたいです。ごめんなさい。私ったら焦って薫さんに電話してしまって」

義母は申し訳なさそうに、私に頭を下げてくる


「いえ、良いんです。だったら、もう帰ります」
「えッ! 薫さん、せっかくいらしたんですからお父様にお会いして下さい」
「もう、元気ならば、、」
「今夜はここに泊まって行って下さい。ね・・薫さん」