〔恋愛のはじまり〕

『ちょっと待て!
君の連絡先、電話もアドレスも、すべて知りたいんだけど・・』

俊の手が私の肩に触れた。私は振り返る事なく身動きもしない
大きく息を吐きだした後、笑顔をつくると俊に振り返った。


「本当に どうもありがとうございました。おかげで無事に家に着きました」
『・・・うん・・良かった』

私の肩に触れている俊の手をジッと見ると、やっと手が離れていく
ドアを開けようとしたら、今度は私の腕を掴んだ。


『さっきの、聞こえなかった?』
「・・・」
『君のスマホ貸して』
「えッ」

私の手に握られていたスマホを俊は一瞥(いちべつ)すると掌を私の前に出した。

『僕の連絡先、入れるだけだから』

俊が優しく微笑む
『イタ電なんてしないし、、、送ってあげたお礼だと思って』


クスクス笑う俊の笑顔に私も微笑んでしまう。そして薫はスマホを掌に乗せた
俊は、連絡用アプリを開くと電話番号を打ち込み自分に発信する。
俊のポケットのスマホが振動した事で、目的が果たせて満足しているのか、
笑顔で私のスマホを返してくれた。


『はい、ありがとう』
「別に大丈夫ですけど、、私、、」


薫がそう話しかけた時、自宅の門から中年の女性が出てきて、この車を
訝しげに見てくる。僕の視線の先を追って見た薫は、言いかけた言葉を
中断させたまま女性と目を合わせたようだ。

「あっ、お義母さん」
薫に気づいたその女性も、傘を差しながら助手席側のドアの前までやってくる

「ありがとうございました。それじゃあ・・」


ドアを閉めた後、窓越しに頭を下げる薫に、その母親が慌てて傘を差しだした。
僕は一回、母親に会釈をし、薫に微笑むと車を静かに発進させた。そしてバックミラーで彼女を確認した。


『オオサワカオル・・気になったんだけど、、フラれたかな』
そんな風に独り言ちる僕がいた。