偶然にも今日、こんなところで会う事になるなんて、考えてもいなかった。薫は僕が前を歩いている事に気づかないでいたし、そんな僕もゆっくりと足をすすめて、数歩前で傘を前方に向け顔を隠した。

僕の横を通り過ぎると、ゆっくりと振り返り薫の後姿をみつめる。
間違いない、姿勢の良い凛とした立ち姿、ゆっくりと歩みを進めていた。

ずっと会いたくて会いたくて仕方なかった薫が、今そこにいた。
今の状況に動揺を隠せない。

”どうしたら・・・・いいだろう?”
とにかく薫の後を見失わないように、そのまま追いかけた。同じだけの距離を保ちながら、後姿をみつめる。

薫の目的の場所は、僕がさっき歩きはじめた山○病院だった。後から病院の中まで追いかけると、1階のラウンジのソファにお腹をかばいながら座る姿を見た。
良く見ると、彼女の腹部の膨らみが少し目立っているのがわかった。

僕は・・ただ愕然とした。
あれから数ヶ月会っていない彼女を目にして、薫のお腹には新しい命が芽生えていたんだ


僕か?僕の子供なのか?!
そうなのか?それなら、どうして言わない?!

僕はそう思っただけで、薫の前に立つことが出来た。
目の前の僕に驚きを隠せない様子で、声も出さず微かに手が震えている。


『・・・久しぶり、偶然に見かけたものだから』
「・・・・・」
『元気? そうか、赤ちゃんできたんだね? 薫、その子は僕の?』
「・・・・・あなたには・・関係のない子です」