本心


「先輩、マジでアメリカ行っちゃうんですか?」

『・・うん?・・・ああ』
「そっか、なんか寂しいなぁ~ッ! 昔から たま~に先輩の顔見て僕は勝手に先輩みたいになるって目標にしてたから、これからは自分でテンションをあげないとだしなぁ~」
『あん? 何言ってんだよッ! お前だってもう立派な循環器の医師に成りつつあるから、自信持てよ』
「ホントですかー?!先輩がソー言ってくれるんだったらなんか僕、自信もてるなぁ~!」

5月も終わりに近づく日、大学病院の医局で荷物整理をするために来ていた俊に、後輩の木村は残念そうに声をかけていた。今日は白衣でなく、ブルーストライプのシャツにネイビーのジャケットと同色のパンツを合わせ、この後どこかに寄るのだろうかと木村は思い、声に出して聞いてみた。

「先輩、今日はこの後、どこかに行くんですか?」
『ああ、、、そうだな。』
「どこですか?」
『ん?どうして?』

「先輩にしてはビジネスカジュアルじゃないかと、、普通は、ジーンズにTシャツでしょ?」
『失礼な奴だなぁ、、でも、何か、魂胆があるだろ?』

さすがに付き合いの永い先輩後輩の関係だ。そう木村は思うと思い切って聞いてみた。


「・・・ところで、あの先輩の車はどうするんですか?」
『車?、僕の車の事?』
「ええ、そうですッ、いったい どーされるんだろうかと心配で」

『あはッ、それか、、お前、まさか僕の車を狙ってる?』
「あれぇ~? バレちゃいました?」
『お前にだって カッコイイ高級外車あるじゃないか?』
「・・それが実はあの・・売りに出しちゃったんです」
『えっ?・・何で?』

木村が言うには、彼女が妊娠して結婚をするそうだ。それで、産科にはあの有名な山〇病院を彼女が望んだらしい。しかし、研修医の木村には経済的にかなりのハードルの高さらしく、泣く泣く愛車を先日売りに出したって言ってた。

山○病院か、そういえば彼女と待ち合わせして、何だか変な間違いまでされて、
あの日もこんな雨の日だったな。
今は、緑が綺麗な梅雨を目前にした季節だけど、あの頃は秋も深まりかけて彼女の身体が冷たくなってたんだった。