俊の腕を掴んで、リビングを出ようとした時、その後姿に父が言ってきた。


「その男は、私を学長の座から引き下ろすために選ばれ、お前にも近づいて、騙した後に坂上君の娘と結婚する予定だそうだ。薫、パパのいう事を信じなさい。ほら、こっちへ・・うッ」


後姿の私に向かって 父が言った言葉を無視していたのに、最後の声が震えて、痛みに耐えるような?・・えッ?・・これは・・?後を振りかえると、父が胸を押さえながら苦しんでいる。

「パパ?・・・どうしたの?!パパ?」

俊がすぐに父に駆け寄り、父の状態を観察する

「学長、胸が痛むんですね?」
「・・だ・・大丈夫だ! 私にさわ・・る・・な・・・・ほってお・・うッ・・」


父の顔色は蒼白になり、見る見るうちに唇も爪の色も紫色に変化する。脈拍はかなり弱くて、呼吸困難も起こしているようだった。

『薫、AMI(急性心筋梗塞)の兆候だ! 救急車を!』
「パパ・・・嘘・・」
『薫、早くッ!』


彼にそう言われても、ただ呆然としていた。私の目の前で父が意識を失い、呼吸を止めたのだから。きっともう、心臓だって、、  
嫌ッ! パパ、逝かないで。

俊が蘇生をしながら救急車に乗り込んだ。私は足がすくんで動けない。
私の異変に気づいて、俊が大声で叫んだ

『薫ッ! 大丈夫だ、僕を信じろ! 早く来いッ!』