俊は、父に向き直ると、力強い声で言う。

『私が大学病院へ戻されたのには、色んな理由があったようです。でも、私は循環器の医師として研究もしたいし、症例数も積みたい。薫さんの事も学長の事も関係のない所で、そう思っていました。しかし私は確かに教授に期待された仕事があったようです』

「それで、薫に取り入って大学学長の私にまで会ったから・・さぁ、これからどうする?私を騙すか?」
『何もするつもりはありません。薫さんや学長を騙すつもりもありません』


父が彼の言葉を、どうみても信用なんてしていない口ぶりだった。
さらに俊が父の質問に少しだけ考えてゆっくり話し出す


『今夜、こんな風に此処に来てお会いする事になるとは思ってもみませんでした。私が今、何を話しても学長には信じては戴けないでしょう』

「なら、坂上君から私の方に乗り換えるって・・そういう魂胆か?」
『・・そうすれば、薫さんと一緒にいることができますか?』
「なんだと?!」

『大学のような縦社会の中で、逆らうって事は、辞める事だって理解しています。情けない事ですが、学長に私をわかってもらえる術がありません。』
「フン、話にならんな。大月君の言った通りだ」
『今、誓っていえる事はお嬢さんを、薫さんを大事にしたいという事だけです』

「とにかく、君は帰ってくれ! 二度と此処へは顔を見せるな! それから、首を洗って待ってろッ! 必ず君を大学から追い出してやる」
「パパ、なんて事を言うの?! 酷いわ。 パパがそんな事を言うなんて、坂上教授と同じじゃない」
「薫、どこまでお前はお人好しなんだ。お前はこの男に騙されていることがわからないのか?!」